ルーナとしての初仕事
冒険者カードを受け取ったあたしは早速様々な依頼書が張り出されている掲示板へと向かう。
そこには指定物の収集や魔物の討伐、護衛や遠征など様々な依頼とそれぞれの紙にアルファベットが書かれていた。
「やっぱり受けるなら大物の討伐依頼よね!」
あたしは「S+」と書かれている討伐依頼の紙を取ろうとすると、その後ろから腕が伸びてきたと思うと別の紙を剥ぎ取った。
「こら、お前はいきなり何を受けようとしているんだ?まずはこれからだ」
その人物、クロトはジト目であたしを睨みながら手にしていた紙をあたしへと突きつけた。
「クロト……?何よこれ……はぁっ!?薬草の採集依頼っ!?」
その紙には「薬草の採集依頼」と「F」の文字が書かれており、あたしは目を疑った。
「何よこれ!なんであたしが薬草の採集なんかしなくちゃいけないのよっ!」
「あのな、新人冒険者の最初に受ける仕事は大体こういうものだ。いきなり大物討伐なんか持っていっても受けさせてくれないし、仮に受けさせてもらったとしても死にに行くようなものだぞ。しかもルーナが取ろうとしたやつは
「むぅ……。なら別の討伐がいいっ!」
そして討伐を果たした話をして他の冒険者達と「そこであたしの一撃が……!」みたいな感じで盛り上がるのよっ!
「はいはい、Fランクのルーナは大人しく薬草採集に行くぞ」
「ちょっと……!クロト離しなさいよ……っ!」
あたしはクロトに襟首を引っ張られる形で先ほどの受付へと向かった。
◆◆◆
トリスタの街を出たあたしは街を取り囲む城壁に設けられている門を抜け、街の南部に広がっている森へとやって来ていた。
この街は平原に囲まれた街ではあるけれど、この南部の方にだけ森が広がっている。
クロトの話では、この南部に広がる森、特に街の近くには危険な魔物も少なく、日帰りで行き来出来る距離にあるため、新人冒険者にうってつけの場所なのだという。
それはいいのだけど……。
「ほんと、なんであたしが草むしりなんかしなくちゃいけないのよ……」
あたしはブツブツと文句を言いながらクロトからもらった薬草の見本と同じ草をむしり取っていく。
まったく、あたしはこの国の第三王女、ステラ・ムーン・トリエステよっ!?
派手な討伐とかならまだしも、なんで王女たるあたしが草むしりなんてしないといけないのよっ!
「ボヤくなルーナ。それに、草むしりじゃなくて薬草採集だ」
「似たようなものよっ!あたしは討伐依頼を華麗にこなして、他の冒険者達とその話で盛り上がりたいのよっ!」
「そう言うのは、キチンと下積みを終わらせてからにしろ。それに、変に悪目立ちをすると面倒なことに巻き込まれるぞ」
「ふん!それこそ望むところよっ!例え変なのに絡まれたとしても返り討ちにしてギャフンと言わせてやるわっ!」
「やれやれ……、これだから世間知らずなお姫様は困るんだ」
クロトはあたしに向けてやれやれといった風に頭を振っている。
「何が世間知らずよっ!」
「冒険者の全部が全部良い奴とは限らない。中には荒くれ者もいれば野盗崩れの冒険者だっている。そんな奴らに目をつけられたら酷い目にあうぞ。もしお前に万が一のことがあったら俺は国王夫妻とエルトに……、いやこの国の民全員に合わせる顔がないんだからな」
「ふ……ふん……!そんな事を言ってあたしを脅かそうとしても無駄なんだから……!」
「いや、これは忠告だ。それに、ルーナは冒険者の常識があまり分かってないから教えてやってるんだ」
クロトの言っていることは正論だ。
確かにクロトから見れば、あたしは世間知らずで常識知らずかもしれない。
でも、だからってこの草むしりをやらないといけない理由にはならないわ!
「ま……まあ?あたしだって?そのくらい分かってるわよ?」
あたしは立ち上がると、自信満々に胸を反らしてみせた。
「ほう?じゃあなんで薬草採集なんて地味な依頼を選んだか言ってもらおうか。自慢げに無い胸を反らして言ってるんだ、余程の自信があるんだろう」
「そ……それは……」
「ほらみろ、分かってないじゃないか」
うう……、確かにそうかもしれないけど……!
くう……!ギャフンと言わせるどころか、あたしがクロトにぐうの音も出せなくされちゃったじゃないっ!
というか、無い胸は余計よっ!!
こうなったら話題を変えてやるわ……っ!
あたしは苦し紛れに話題を変えることにした。
「それよりクロト!あのクロト・"ランカスター"ってのは何よ!あなたはクロト・ローランドでしょっ!?」
「クロト・ローランドがステラ・ムーン・トリエステのお目付け役と言うのが周知の事実なのは流石のお前でも知っているだろ」
「そ……そりゃあ……、あたしだってそのくらいは知ってるわよ……」
だって、ステラ・ムーン・トリエステはあたしなんだから。
「なら、俺が実名でお前に甲斐甲斐しく世話を焼いていたら『ルーナ・ランカスターの正体はステラ・ムーン・トリエステだ』と言うことがすぐにバレるに決まっている。そうなると色々と面倒事に巻き込まれるのは明白だ。だから、敢えて俺は従兄妹という事にしておいたんだ」
クロト、そこまで考えていてくれたんだ……。
「それなら別に兄妹とかでも良かったんじゃないの……?」
「はっ!お前みたいな妹はゴメンだ」
「なんですってっ!?」
ムッキーっ!!
この男は本当に口が減らないわねっ!
見てなさい!今にギャフンと言わせてやるんだからっ!
「ルーナ」
「何よっ!」
「何度も言っているが、俺はお前にもしもの事があったら困るんだ。だからこうしてお前に付いて来ている」
クロトは真剣な眼差しであたしを見つめてくる。
そんな言い方をされたら怒れないじゃない!
「ふ……ふん……!どうせ父上や兄上に顔向けできないからでしょっ!」
「……ま、そういう事にしておこう」
ほら見なさいっ!
クロトはあたしのためと言いながら、結局は父上や母上、それに兄上に何か言われるのが怖いだけなんじゃないっ!
それ以降あたし達は何も喋ることもなくただひたすらに
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