Ⅳ.ヒトもし
Ⅳ-16.マルトン①
「ようこそ、採石場へ」
採石場の待合室で、マルトンは頭を下げて私たちを歓迎した。
私たちは昨日、ジンとソーイの家族に再合併して、家族選挙をした。結果は私が最多得票者。翌日である今日、マルトンの待つ採石場に五人で来た。
「お久しぶりですね。ジンさん、ソーイさん、テネスさん」
「見違えるようですね、マルトン先生」
ジンが笑う。
マルトンも一緒になって笑った。
「見えていないでしょうに、冗談を言うなんて、ジンさんこそ変わりましたね」
「いいえ、見違えるようです。そんなに余裕のない先生は見たことありませんから」
「ヒトは裏切られると、とても悲しいんですよ」
マルトンは頬を緩めつつ、目の端から涙を流した。
「御託はいい。早くイヨを案内しろ」
オパエツが物申す。
マルトンは涙を拭って、採掘場への扉を開けた。
「では最多得票者のイヨさん。こちらへ」
「はい」
私はマルトンに促されて、採掘場へと足を踏み入れた。
扉の先には鉄の足場があり、すぐに下り階段が現れた。マルトンは私の前を歩き、階段を下り始めた。
「私はあなたがここに来ると信じていました」
「もう、そういう演技はしなくていいですよ」
マルトンは足を止め、こちらを振り向いた。
「もう少しこの調子でやらせてください。でないとあなたに直接危害を加えてしまいそうです」
私はぞっとした。同時に自分がマルトンを低く見定めていたことを反省した。
マルトンは前を向き、再び階段を下り始めた。
「ジンとソーイから連絡がなかったときから怪しいとは思っていました。魂石の崩壊と炎化についてはもう知っていますね?」
「はい」
「まさかとは思いましたが、さすがイヨさんとオパエツさんです。私の手の外で炎化したのはイヨさんが初めてですよ」
「そうなんですね」
それより先に炎化したナナナを思って、私は拳を固めた
階段はジグザグについていて、少しずつ地面に近づいていく。採掘場には、数人の人影が見えた。
「あれは私の研究44HPによって炎化した模人です。今は魂石の採掘をしてもらっています」
「私も、あの中の一人になるってことですか」
「そうなります」
彼らが鶴嘴を振るたび、魂石が削り出されていく。それを運ぶヒト、監督するヒト。採石場は人数が少なくても統率が取れていた。
「今は十八人です」
「炎化したあのヒト達は、あと何日生きられるんですか?」
私の質問に答える前に、マルトンは階段を降りきった。大地に立ったマルトンは、目の前の教会に私を案内した。
教会は採石場の中でも特に大きい原石の近くに立っていて、砂埃を被ったその姿は、哀愁を帯びていた。
教会の中も埃っぽく、最低限の寝食ができる部屋が幾つかあった。私はそのうちのひとつの個室に通され、遣いの模人から祭服を受け取った。
祭服はあの日、ヨッカが着ていたものと同じ無地の黒い服だった。下着姿で、頭からすっぽりと被り、腰の紐を結んだらすぐに着替えは終わった。
マルトンの待つ礼拝堂に向かう途中、私は幾つかの個室から、ヒトが啜り泣くような声を聞いた。
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