Ⅲ-15.希望③
全員で皿洗いや部屋の掃除を済ませ、再びテーブルを囲んだ。
話の口火を切ったのは、ジンだった。
「昨日のお話を、私とソーイは部屋の外から聞いていました。ナナナさんのことも聞いていました。盗み聞きをして申し訳ありません」
「俺が立ってろと言ったんだ」
オパエツが訂正する。
「失礼しました。イヨさん、その話を聞いて、あなたにもう一度聞きたいことがあります。あなたは、これからどうするつもりですか? 残りの時間も少ないはずです」
真っ直ぐなジンの質問に、私も正面から答えた。
「多分、あと一週間持たないと思う。だから、私はジンとソーイのことを知って、オパエツとテネスと一緒にいつもみたいな毎日を送りたい」
「投票を妨害したんですよ」
「マルトンの命令だったんでしょ」
「私がいなければナナナさんは助かったかもしれない」
「それはあそこで棄権した私が悪い」
「……」
「ジンさん、私たちの負けです」
ソーイが言った。
「私たちに棄権をさせないために、イヨさんは誰よりも早く棄権した、そうですよね?」
私は肯く。二人はあの投票でいつでも棄権をすることができた。それをしなかったのは私たちの心を折りたかったからだ。それでも、曲がりなりにも彼らがコミュニケーションを図ったのは確かだと私は思った。
「あそこで二人が降りたら、もう二度と仲良くはなれないと思ったから、棄権した。そんな家族になりたくない」
私の言葉に、ジンは深い溜め息を吐いた。
「そう、あの時点で私たちはイヨさんに勝てなかった。勝負はついていました。勝負以前の話だったのかもしれません」
私はジンの言葉から嫌な棘がなくなったと感じた。
「私は、マルトン氏の描く世界より、イヨさんの描く世界の方に、賭けたくなったのです。謝っても許されることではありません。それでも、私を、私とソーイを家族として認めていただけますか?」
「もちろん」
私は思い切り明るい声で返事をした。
オパエツもそっぽを向いているけれど、それは異論がないことの表れだった。
「ありがとうございます。……ひとつ、質問があるのですが、よろしいですか?」
ジンは一転、神妙な面持ちで私に訊ねた。
私も真っ直ぐに肯く。
「なに?」
「もし、これから魂石の採掘場に行けるとしたら、イヨさんは行きたいですか?」
想定外の質問に、私はジンの言っていることが呑み込めなかった。
オパエツもテネスも、驚いている様子はなく、黙って私を見ている。
状況を理解出来ていないのは私だけだった。
「そんな、行ける、の? 私はあと一週間で死んじゃうし、投票は来月までないでしょ?」
行けない理由を並べる私の前に、ソーイが二枚の紙をテーブルに載せた。
『家族解消申請書』『家族合併申請書』
両方に、私以外の四人の名前がサインしてある。
ジンが書類について説明した。
「家族関係は結んでから一ヶ月はキャンセルをすることが可能です。そのキャンセルが一枚目の家族解消申請書。そして充足人数を満たせなくなったイヨさんたちが私たち側の家族になる申請書が二枚目の家族合併申請書です」
「そんなことして、どうなるの?」
「私たちの家族選挙は明日です。私たち家族の戸籍は解消から一ヶ月は残っているので、今戻れば、家族選挙をもう一度行うことができます」
「家族選挙を、もう一度……?」
私はオパエツの方を見た。
オパエツは肯いた。
「ジンとソーイは嘘を吐いていない。イヨの一筆で、もう一度家族選挙ができる」
残された署名欄の枠に視線を落とす。
「もう一度訊きます。これから魂石の採掘場に行けるとしたら、イヨさんは行きたいですか?」
私はペンを手に取り、二枚の書類にサインした。
「お願いします」
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