Ⅲ-15.希望①

 ナナナが亡くなった翌朝。


 私は自分の部屋で目が覚めた。


 絵を描く道具は部屋に散らかったままで、一週間前と同じ状況が残されていた。


 私はベッドから立ち上がり、軽くストレッチをした。身体の状態は良好。僅かに昨日よりも身体が軽い。いや、多分胸にある魂が軽くなった。ナナナの言っていたことが分かる。もしこの軽さが、失った重さが比例的に魂を減らしていくなら、私の命はもってあと一週間だ。


 扉をノックされ、私は応えた。


「朝ご飯、食べられる?」

「うん。今行く」


 呼びに来てくれたテネスにひとこと言って、私は急いで着替えた。扉を開けると、テネスが待ってくれていた。


「階段で転んだら大変だからさ」

「ありがとう」


 テネスが私の手を引いて、歩いてくれた。


 胸ぐらを摑まれた時から感じていたけれど、魂石が割れてから私の防衛反応が薄い。


 きっとテネスは痛いのだろうけれど、私は慣れているテネスに甘えて、手を引いてもらった。他人の手は、ぴりぴりするけれど、温かかった。


 私は二階の階段の近くまで行って、足を止めた。


「テネス、ジンとソーイは?」


 テネスは振り返り、柔らかく笑った。


「投票の日から、ご飯は私が部屋に届けてるよ」

「そっか」


 階段からすぐ左手の部屋――今はジンがいる部屋を見て、私はナナナにご飯を持ってきていた日々を思い出した。


「呼んでもいいかな?」

「ジンとソーイ?」

「うん。ダメ?」


 テネスは驚いたあと、また笑って、降り掛けていた階段から脚を戻した。


「素直には来ないかもしれないけれど、声だけ掛けてみようか」

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