Ⅲ-13.家族選挙②
「おい、どういうことだ」
オパエツはテーブルを叩き、ジンとソーイに向かって吠え叫んだ。
しかし、ジンは眉ひとつ動かさず、ソーイはオパエツの方を見て怪訝そうな顔をした。
「なんでしょうか」
「なんでしょうかじゃない。なぜイヨが二票で俺にも二票入っているんだ!」
投票結果は私とオパエツに二票ずつ、そして私が入れたソーイの一票だった。同率最多得票者の場合、家族選挙は再投票になる。
ジンは前を向いたままオパエツへ言った。
「私たちが誰に投票したか、そしてオパエツさんが誰に投票したかは公表されません。従って、我々がオパエツさんに投票したとは」
「減らず口を叩くな。約束が違う」
ジンは少し間を置いてから、再び口を開いた。
「オパエツさんへ投票したのが我々だったとして、仮投票の話し合いの後、投票先を変えるのは問題ないのではないでしょうか?」
「約束の話をしているんだ、イヨに投票にする話はどうした?」
前のめりで顔を近づけるオパエツに、ジンは溜め息を吐き、そして笑った。
「イヨさんには時間が無いんですね? オパエツさん」
私の胸がまた痛む。
オパエツは息を漏らし、目が揺れてしまった。
「図星ですか。なら、オパエツさんのやるべきことは我々への批判ではなく、一刻も早い再投票ではないでしょうか?」
「分かっている」
オパエツは興奮と動揺で声が震えていた。
宙に手をかざし、再投票の画面を全員に展開する。
「再投票だ。早く投票しろ」
私は痛みの波が迫る中、オパエツに投票した。当初の予定では私が採掘に行くはずだったが、時間が無かった。オパエツが最多得票者になれば、魂石を私に届けてくれるはずだ。
「開票」
イヨ 二票
オパエツ 一票
テネス 二票
「なんで……?」
「貴様ら」
オパエツが歯噛みしてジンとソーイを睨みつける。
「おや、あいこですね」
ジンは頬を緩めて、あくまで出会った頃と変わらない柔和な笑みを浮かべた。
ジンの正面に座る私は寒気がした。視力を捨てたジンの視線は、私の心の内を完璧に読んでいた。
「再投票しましょう」
イヨ 二票
オパエツ 二票
ジン 一票
「再投票です」
イヨ 二票
オパエツ 二票
テネス 一票
「再投票」
イヨ 二票
テネス 二票
ソーイ 一票
「再投票」
イヨ 二票
オパエツ 一票
テネス 二票
ジンとソーイは、私の投票先を躱して必ず二票の同率最多得票者を立てた。
胸の痛みと共に、思考が混濁していく。
焦れば焦るほど、私の思考は単調に、読みやすくなってしまう。私はやがて、深い谷へと意識を滑落させてしまった。
「再投票」
「いや! なんで!」
テネスの叫び声で、私は正気を取り戻した。
何度再投票をしたか分からない。連続した再投票の末、気絶や催眠に近い状態になっていたことに気付いて、私は唇を噛みしめた。
オパエツも憔悴している。
テネスは、震えて頭を抱えていた。
私は目覚めきっていない頭のせいで、視界のWRに映る投票結果の異変に気付くのに時間が掛かった。そしてそれに気付いて、テネス同様、叫び声を上げた。
イヨ 一票
ソーイ 二票
ジン 二票
「もうあなたでいいのに、どうして!」
テネスが叫ぶ。
恐らくテネスはこの回、私ではなくジンに投票したのだ。私を落としてでも、この投票を終わらせるために。
だが、ジンはそれすら読んで、同率最多得票者の均衡を保った。私だけでなく、テネスの心まで読みきって。
「オマエ、イヨを殺したいのか」
オパエツが血走った目でジンを睨みつけた。
ジンはこめかみに人差し指を当てて、僅かに首を傾けた。
「殺す? まさか。我々模人に殺意なんてないですよ。私はただ、イヨさんを排除できるならその方が今後、都合がいいと思っただけです」
「マルトンの差し金だな……」
オパエツが苛立たしげに呟く。
クツクツと笑うジンと、それを睨みつけるオパエツ。ソーイは姿勢正しく座り、テネスは頭を抱えて震えていた。
ズキズキとした魂石の痛みは次第に大きくなってきて、痛みの響きから、私は魂石にヒビが入っていることが分かった。
もう長くない。
徐々に頭の熱は引いていく。
でも、正体の分からない大事なものが頭の内でずっと引っかかる。
死ぬ前に、その大事なものを知りたい。
知りたいと思えば思うほど、胸の痛みは強くなっていく。
「さぁ、再投票しましょう。イヨさんはもう長くない」
手を投票デバイスに置き、ジンは言った。
そんなジンを見て、オパエツは、笑った。
「ふふ、間に合ったようだ。オマエはさっき、テネスが血迷ったときに自分を当選させておけばよかったんだ」
オパエツはテーブルを叩いて立ち上がった。
それを合図に、リビングの扉が開いた。
現れたそのヒトを見て、私は大事なものに気付いた。
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