Ⅱ-8.痛み⑤
私が観客席に向かうと、予約していたはずの私の席は知らない誰かに取られていた。そこは観客席の中央の辺りで、注意しに行くのも、そこで揉め事になることも避けたかった。
結局、私は立ち見席の壁にもたれかかって、舞台を人々の隙間から覗き見た。
グレイズジムフェスタはダンスバトルショーと同じ構成だった。まずジムパフォーマンスがあって、その次がメインバトルだ。
今回のジムパフォーマンスでは二大巨頭とその傘下のすべてから、それぞれ選抜メンバーが出てきて舞台に立つ。
アップテンポな音楽と観客の手拍子に合わせて、ダンサーが見事な連携技を見せる。よく見ると、摩天のダンサーはほぼ四肢のどこかに義肢を付けていて、それ以外の団体でもちらほらと義肢をもつ選手が見えた。
グレイズ選手の上澄み――選抜メンバーの一割が、44HPに参加しているようだ。
「どこに行っていたんだ」
立ち見席の中を歩いてきたのはオパエツだった。オパエツは私の隣にいたヒトにチップを握らせ、場所を譲らせた。
「ちょっと、シャーマさんのところに」
「行けたのか?」
「うん。でも全然協力してもらえなかった」
「……そうか」
やがて音楽と共にジムパフォーマンスは終わり、手拍子は拍手へと変わった。
メインバトル用の音楽が鳴り、会場は盛り上がる。
シャーマ氏とアルヴォリ氏のMCの後、試合は始まった。メインバトルは八つのジムの選抜選手による八人トーナメント。ヨッカの初戦は三戦目。対戦相手はアルヴォリ派の選手だった。
試合直前、リングの上でヨッカが左腕を外すと、会場中が沸き上がった。
「人気だな」
「でも、ブーイングもあるよ」
前回負けた相手のやり方を真似るのは素直に受け入れられるスタイルではない。ヨッカもそれは分かっていた。それでも受け入れたヨッカを讃える声と批難する声は半々くらいだった。
試合開始と共にリズム合わせもそこそこに、ヨッカは鋭い蹴りを相手の鼻先に掠め、一瞬にしてK.O.勝ちした。
「あの蹴りには敵わない」
「くらったヒトが言うと含蓄があるね」
「俺は尻餅をつかなかった」
「じゃあオパエツの方が強いじゃん」
圧倒的な強さに盛り上がる観客と、リズム合わせを軽んじたダンスにブーイングを送る観客。私はどちらかと言えば後者だった。
四戦目はテネスの試合で、もちろんテネスが勝った。
準決勝第二カードはヨッカ対テネスのリベンジマッチが決まった。
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