Ⅱ.堕天的人間化計画

Ⅱ-5.穴、そこはない。①

 採掘場の待合室に、マルトン司祭の声が冷たく響く。


「ナナナさんの魂石が砕けています。肉体の耐用年数ではありません。最も近い表現をするならば、ナナナさんは死んだのです」


 ヨッカが駆け寄り、ナナナの身体を揺すった。いくら声を掛けても返事がない。それどころか――


「おい、ヨッカ。絶縁グローブもなしに」

「馬鹿野郎、そんなの気にしている場合じゃ――えっ」


 ヨッカはナナナに触れた自分の手を見つめた。


「防衛反応は、生きている者同士でしか起きません。ヨッカさん、防衛反応が弱まっていることが、あなたにはわかるでしょう」


 マルトン司祭が落ち着いた声で言った。


「先生、そんなのおかしいですよ。オレはグレイズで少し刺激に鈍感になってるだけで。イヨ、ナナナに触ってみろよ。きっとぶん殴られたくらいの衝撃がくるんだ」


 私は屈み、横たわるナナナの肩に触れた。昨日、ナナナに摑まれたのを思い出す。弾かれるような衝撃はなく、ぴりぴりとした弱弱しい刺激があるだけ。


 私は首を横に振った。


「嘘だろ。マレニ、オパエツ、オマエらも触れよ。何突っ立ってるんだよ」

「ヨッカ……」


 オパエツはそれ以上、何も言わずに目を逸らした。


 マレニも黙ってそのままその場に泣き崩れた。


 私は、昨日のナナナを思い出した。


 ――きみの絵は素敵だから


 ナナナはあのとき、既に自分が死ぬのが分かっていた?


 それで最後の言葉を言いに私の部屋に来た?


 嫌な想像が、黒い煙となって私の背後から近づいてくるイメージが湧き出る。


「なんで、なんでなんだよ。ナナナ!」


 ヨッカの慟哭が、待合室に響いた。

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