I-2.きみと踊りたいのさ⑥
「おつかれ」
「……イヨ」
私はCGGのジムの前で、ヨッカを迎えた。
あのあと第三試合はCGGの勝ちで、CGGの勝ち越しとなった。それでも摩天は善戦し、興業としては大成功。摩天もCGGも、入り口の入会募集は賑わっていた。
同門のジョルジュから「ヨッカはアリーナから一度ジムに戻る」という話を聞いた私は、ジムまではるばる迎えに来たのだった。
「他のみんなは?」
「先に帰ってるよ。ナナナが美味しいご飯作ってるからさ、もしヨッカが帰らないなんてことがあったら困るってことで」
「……ありがとう」
私はヨッカから引ったくるようにしてバッグを奪った。ヨッカは何も言わず、私の後ろを着いて歩いた。ジムから駅まで、五分くらい黙って歩いた。
「……」
「……」
誰もいない電車。
隣に座ってから、ようやくヨッカは口を開いた。
「かっこ悪ぃ」
「そんなことないよ」
「……そんなことある。あるんだよ」
ヨッカは向かいの窓の外を眺めたまま、呟いた。
「みんなには言わないで欲しいんだけどさ、俺、絶対勝てると思ってたんだよ」
「うん」
「相手と背が同じくらいだったから、俺の方が絶対脚のリーチあるし。相手より俺の方が年上だし。俺の方が絶対練習してきたし。でもそんなんこれまでいくつもあって、それでも負けることがあるって、絶対なんてないって知ってたはずなのに。なのに」
膝の上のヨッカの拳が硬く握られる。
「テネスが脚を外した瞬間、絶対勝てるって思っちまった。負けるわけがないって。それで負けたんだ。こんなにかっこ悪いこと、家族には言えない。でも、知っていて欲しかったんだよ。なぁ、イヨ」
「うん。お疲れ様。ヨッカ」
気付いたら一駅乗り過ごしていて、夕飯を待たせてしまった。
作ったナナナより怒るマレニとオパエツに、私たちは揃って叱られた。
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