I-2.きみと踊りたいのさ④

 一戦目。


 CGG ジョルジュ(七年目) 対 摩天 ウサ(五年目)


「ヒリつけェ! ファイッ!」


 シャーマの掛け声と共に、音楽が掛かり、会場全体で手拍子が始まる。ジョルジュもウサも、リズムに合わせて小刻みに揺れながら、お互いの出方を伺う。


 グレイズバトルの試合着は短パンにフィット型のタンクトップ、そして万が一触れてしまったとしても防衛反応が起きないよう手足に絶縁素材の布を巻くことが規定で決まっていた。CGGのユニフォームには炎の意匠があり、揺れるたびに炎が燃えさかるように見える。一方の摩天は上も下もブラック一色のシンプルなものだった。だが、よく見れば小さなラメが入っているのか、ウサの背中はきらきらと星空のように瞬いていた。


「きれい……」


 マレニの口から小さく漏れた感想に、私も肯いた。


 二人がお互いの波長を掴んだらしい開始四秒、最初に動いたのは挑戦者、摩天のウサだった。流れるような連撃を、ジョルジュの胴と顔面の二箇所へ浴びせていく。身体の軸となる二箇所への攻撃を、ジョルジュは軽やかに躱し、踊ってみせる。


「イヨ、これってどうしたら勝ちなの? 攻撃は当たらないよね?」

「身体同士が触れ合ったら、ヒッティングペナルティ、その瞬間判定に入って、故意に当てた方の負け。判定が難しかったら両負けになるよ。基本的にはシケちゃうから起こらないようにはしてるけど、そのスリルも楽しんでる感じで、ギリギリを攻めるんだよね。普通は、避けている内にバランスを崩したら負け。厳密に言えば、手足の内どれかひとつ以上と、背中を同時に一秒以上つけたら負け。そうならなかったら、制限時間の一分を過ぎた段階での観客の勝敗判定かな。よりイケてた方の勝ち」


 序盤攻めていたウサの攻め手が鈍り、ジョルジュが巻き返している。速攻を仕掛けたウサは受ける力が残っていないようで、ヨロヨロと大ぶりな動きでジョルジュの蹴りを避けていた。


「ありゃ逃げだな」


 オパエツが憐れみの目でウサを見た。


 試合終了まで残り九秒。


 ジョルジュはウサの俯いた顔面に手向けの一蹴を放つ。


 瞬間、あたかも蹴りが当たったかのようにウサは跳び上がり、後ろへ仰け反った。ウサの叫び声。私含め、会場の多くが、ジョルジュまでも、ヒッティングが発生したかと錯覚した。


 試合終了のブザーが鳴り、音楽が止む。


 最後の光景は、ジョルジュの首にウサの脚が刀のように鋭く添えられた状態だった。


 ウサは最後の最後で抵抗としてカウンターの姿勢を見せた。


「FOOOOOOOOO!!!」


 会場が割れんばかりの喝采に包まれる。


「判定! 判定! ジャッジの準備はできてるか! 勝ったのが、CGG ジョルジュだと思う方は拳を! 勝ったのが、摩天だと思う方は掌を上げてくれぇ! この勝負の命運は、皆様のジャッジに掛かっている!」


 私たちは拳を上げた。オパエツを除いて。


 カメラで計測されたデータが、中央のモニタに表示される。


 音楽と共に高まっていくボルテージの末、勝利したのは――


「極僅差ではあるが、勝ったのはCGG ジョルジュ!」

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