I.鉱山都市ソウィリカのある一家の日々

I-1.一ヵ月前の再会①

 最初に幽霊を見たのは、ナナナと出会った日のことだった。


 その日の昼前、私はヨッカと一緒に電車でナナナを工場に迎えに行った。オパエツとマレニは家でナナナの歓迎会の準備をしていて、私はヨッカと「二人が仲良く準備できているか」を賭けていた。ヨッカは彼らの仲の良さを信じていたけれど、私は彼らの仲の悪さを信じていた。


 工場はソウィリカの南にある。より正確に言えば、生活圏を越えた未開地が工業地帯になっていた。私たちが向かっているのは、生活圏と工業地帯の間にある役場の戸籍課だ。


 耐用年数を迎えた「一週間前のナナナ」をそこで送り出した。ナナナは体を魂石とそれ以外に分解して、新たな体に魂石を填める。こうすることでまた十年、ナナナは私たちと生活することができる。


 記憶は最初からやり直しになるけれど、それは全員お互い様だ。相手が忘れているから、過去のいざこざは水に流せるし、妙な企みも長続きはしない。私は「記憶が残らない」ことに不満はなかった。


「あ、いたいた」


 役場の戸籍課で手続きを済ませ、ナナナの待つ個室に入ると、私たちは戸籍課のスタッフと一緒にパイプ椅子に座るナナナと対面した。


 ナナナは私たちを見るなり立ち上がり、深々とお辞儀をした。


「は、はじめまして。ナナナです。あ、知ってますよね。あの、不束者ですが、どうぞよろしくお願い致します」

「そう固くなんなって。俺がヨッカで」

「私がイヨ。家族なんだしタメ口で良いよ」


 私は笑顔でナナナに親指を立てて見せた。


 ナナナは嬉しそうに頬を赤らめて、慣れない口ぶりで言った。


「よ、よろしく……」

「じゃ、家帰るか。オパエツとマレニがきっと凄い飾り付けしてるぜ」


 彼らの役割は料理だったけれど、私もヨッカと同じ意見だった。きっと足の踏み場もないほど色とりどりの部屋になっている。

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