仲間

 戦いが終われば人も散り散りとなり、リックランプの北側区画に普段の賑わいの色が戻る中、広場のベンチに座り話すのはエルクリッドとシェダの二人。

 正面にはいくつもの露店があり、その一つの前でタラゼドとノヴァが買い物をする姿を眺めながら話を進める。


「そういう訳だからサーチャーかシーカーを探してたって事。で、ノヴァはあんたを気に入ったみたいだから、どーかなって話」


「伝説のカード……確かに普通のリスナーなら信じない話だろーな」


 エルクリッドが話していたのはノヴァの依頼について。伝説のカードの事を聞いてもシェダは表情を変えずしっかりと話を聞いてるようであり、少し考えてから彼自身の旅の訳を語り始めた。


「俺も故郷の為に伝説のカードを探してる。だからあんたらの旅についてくのは良いのかもしれないな」


「あんたも? どうして?」


「故郷は火の国と地の国の境界近くダストってとこだ。知ってるかもだが酷い荒れ地でさ、でも昔はそうじゃなくて……伝説のカードのせいでそうなったって知ったからな」


 シェダの故郷ダストという場所の事はエルクリッドも知っている。立地的には問題ないのに不自然な程に植物がまともに育たず貧しい場所で、出稼ぎ労働者が各地で得た品々を送り届けていると聞く。

 その場所の出身というシェダがさらに続けるのはダストと伝説のカードの逸話だ。


「その昔、災害でダストの土地がぼろぼろになった時、当時のリスナーが伝説のカードを使って元に戻そうとした……でも、使い方を間違えて、貧しい土地にしちまったんだ」


「そんな事が……」


「伝説のカードってのは使い方によってその力も変わるらしい。ある時は恵みを与えある時は災いをもたらす……だから俺が見つけて、今度はちゃんとした使い方で故郷を救いたい」

 

 神獣の伝説はカードの伝説。確かにカードの使い方を誤る者は多く、新人リスナーや素質ある者の事故も多い。強大なカードなら尚の事、正しく使えるか試され、それを使う事で救えるものもある。


 立ち上がって晴れた空を見上げ、拳を突きかざしながらシェダの目に光が灯ると、さらに言葉に思いが乗った。


「あそこは昔から先祖達が守ってきた場所だし、荒れ地になっても皆住み続けてるのはそういうのもある……故郷の為に役立ちたい、力があるなら守りたい、俺がリスナーの力を持ってるのはその為だって思ってる」


 シェダが目指すもの、それを語る思いは本物。同時に故郷がある事で頑張れる姿に、少しだけエルクリッドは昔を思い出す。


「あたしには故郷とかないけど……あんたのそういうの良いと思うよ。何かに向かって頑張れる人、嫌いじゃないし」


 足を組みながら頬杖をつき、シェダを見つめるエルクリッドは微笑みながらそう伝えると、シェダは少し顔を赤くし、そっぽを向いて何やら深呼吸を繰り返していた。

 その理由はエルクリッドにはわからないものの、タラゼドとノヴァが何やら持って帰ってきたので勢いをつけて立ち上がり二人の方へ。


「おかえりー。それは何? お土産?」


「これはケバブという料理です。はいどうぞ」


 エルクリッドにノヴァが差し出すのはケバブというパン生地に焼いた肉と野菜が挟まる料理。香ばしい匂いと見るからに食欲を誘う彩りにエルクリッドはすぐに一口に食べ、うんうんと満足しながらさらに一口と食べ進めていく。


「シェダさんもどうぞ」


「お、おぅ……いいのか?」


「戦ったあとはお腹空いてるでしょうから」


「すまねぇな……いただきます」


 軽く頭を下げてからシェダもケバブを受け取って食べ始め、笑顔のノヴァも自分の分をもぐもぐと食べ始める。

 既に食べ終えたエルクリッドにタラゼドは何も言わずにもう一つ差し出し、何やら目で訴えてくる彼女に微笑みで応えると笑顔で受け取り食べ始めた。


「んっ、んっ……あーいきかえる〜、めっちゃうまうま〜」


「お気に召したようで何よりです」


 頬がこぼれ落ちるとはこの事かとケバブが気に入り満足げなエルクリッド。美味しそうに食べる姿は年相応の可憐さもあり、そんな彼女の姿を見てか道行く人々の足もケバブ屋へと向かっていく。


 そんな事が起きてるなど露知らず、ノヴァはシェダを見上げながら改めて旅についての話を切り出す。


「あのっ、エルクさんから聞いたと思いますけど、僕達に力を貸してくれませんか?」


「ん、いいぜ。伝説のカードには俺も用があるからな……でもサーチャーやシーカーってわけじゃないが、いいのか?」


「はい! シェダさんが良い人ですから!」


 いいのかそれでとケバブを食べ進めながらエルクリッドは思いもしたが、タラゼドが苦笑しつつも同意をしてるのを見てひとまずノヴァの判断に従う事に。

 シェダも身を屈めてノヴァと目の高さを合わせ、軽く拳をノヴァの前に突き出しにっと笑った。


「よろしくな!」


「はい、よろしくです!」


 新たな仲間シェダが加わり、目的のサーチャーないしシーカーではないがリスナー二人体制に。これでリックランプでの目標は果たせた事になる。


 次の目的地は何処になるのか、どうやってカードを探すのか、それは立ち上がるシェダが切り出した。


「伝説のカードを探すってなら、最近この近くで目撃されたっていうのを追うのがいいかもな」


「え? 目撃情報あるんですか!?」


 真っ先にノヴァが食いつきぴょんぴょん跳ねながらシェダを見上げ、すぐにひょいとエルクリッドがノヴァの首根っこを掴むように持ち上げ落ち着きなと声をかけ一度周囲に目を配る。

 ケバブ屋に人が集中し話を聞かれる心配はないと判断してからノヴァを下ろし、彼女の代わりにエルクリッドが話を進めた。


「その目撃情報ってのはどういうのなの?」


「あぁ、昨日の夜明け前に南に向かって飛ぶ神獣を見たって話を聞いたんだ。月を背後に銀の光を振りまきながら飛ぶ姿を」


 その話を聞いてエルクリッドは、ノヴァと出会った日の夜明け前の事を思い出す。月の下に真横に向かって何かが飛び、光を振りまきながら進む姿を。


「あたし……それ見たかも」


「え!? エルクさん見たんですか!?」


「うん、ノヴァと会った日の夜明け前に。泊まった宿の窓の方角からして……南西に向かってたかな」


 南西、と聞いて顎を手にあてながら考え始めるのはタラゼド。エルクリッドやシェダも南西に何があったか記憶を辿り、三人はほぼ同時に答えを導く。


「賢者の神殿」


 声が揃い顔を合わせる三人、ノヴァもそれを見上げ見つめ軽く笑い合い、次なる行き先が自然と決まる。


 カードの数だけ出会いがある、繋がり、手を取り、共に歩む。



next……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る