邂逅ーFateー

旅生活

 思い出も、温もりも、居場所も、親友も恩師も、何もかも燃え尽きる。


 炎の中に立つ影は十の赤星からなる火竜の星座を背負い、圧倒的な力で全てを焼き尽くす。


 手を伸ばしても届く事はなく、身体を傷つけられ、心を砕かれ、何もかも失う。


 全てを失った日の事は忘れはしない、悲しみも、痛みも、だからこそ誓ったこともまた。



ーー


 エタリラと呼ばれし世界、四元素の魔の流れが天地人を創り出し現存する大陸の名でもある。


 そこに生きとし生けるものの中に、魔物や精霊と心を通わせカードを用いた術を持つリスナーと呼ばれる者達がいた。

 古くから彼らは存在し共に力を合わせ困難に立ち向かうもの、限界へと挑むもの、誰かの為に力を使うもの、あるいは私利私欲の為に、守る為に、様々な志をもって世界を巡り動かす担い手。


 リスナーとして生計を立てるものは多い。エルクリッドもその一人。


 彼女が現在いるのはエタリラの南東部ナーム国とアンディーナ国の境界近くの街セイド。交易都市としての機能を有し、リスナーにとっても活動の拠点とする者も多い場所だ。


 宿泊する部屋のベッドから身を起こして小さく息をつき、部屋の暗さからまだ夜明け前と思い身体を伸ばす。


(また、思い出しちゃったな)


 深呼吸し心を落ち着かせる。悪夢であってほしい記憶、自分の旅の目的、反面教師、多くの思いが錯綜する。


 だが囚われることなく立ち上がり、カーテンを開けて月明かりの下に姿を晒す。


(もう少し、寝ておこうかな)


 まだ朝日は遠い夜の空。今宵の半月はいつにも増して輝き、星の瞬きもまた同じように。


 ふと、月の光にキラキラと光の粒が混じっているように見え、エルクリッドは窓を開けて落ちないよう気をつけながら身を乗り出し目を凝らす。


(流れ星……にしては何か……)


 上から下へと流れる星はあれども、今見えているのはほぼ真横へゆっくりと進んでいる。


 それが何かは遠すぎて定かではない。だが、銀の光をふりまきながらそれは飛び、やがて夜空へと消えて見えなくなろうとも残光が瞬いていた。


(なんだったのかな?) 


 心にすっと入り、そのまま刻みつけるような確かな存在感があった。変わった星なのか、そうでないのか、わからない。


 しばし夜空を見つめ続けてから肌寒さで我に返ったエルクリッドは窓とカーテンを閉め、気持ちを切り替えてベッドの中へ。


 旅をするようになってまだ一年ほど。天井を見る目を閉じ、教えを振り返る。


(世界を見てこい、か……また一つ、思い出が増えた……)


 闇の中でエルクリッドは安らかに眠りにつく。朝になれば、新たな一日の始まり。



ーー


 起きてすぐにエルクリッドは身支度を進めていく。四角い背負い鞄の中を確認、すっと青の丈の短いズボンを履いてブーツを履き、さっと七分丈の赤の上着を羽織って手袋をはめ、頭にゴーグルをつけ、そして最後に白いカード入れを左腰のベルトに装着する。


「着替えよし、カードよし、戸締まりよし、あたしの覚悟よし!」


 声に出して確認をしてからエルクリッドは鞄を背負って部屋を出て受付へ。支払いを済ませ宿の外へ出ると、まず目に映るのは賑わいのある大通り。


 さて、とエルクリッドは左右の確認をしてから道を渡って歩き進み、目指す場所は特にはないが前へと進む。


(昨日のお仕事でお金も増えたし新しいアセスも増えたし……どうしようかな? 皆は希望ある?)


 歩きながらエルクリッドは左手をカード入れに触れ、心に問いかけると静かに声が頭に響き始める。


(麗しきエルクリッドが行く場所なら何処へでも)


(セレッタの事など気にしないでくださいエルク。私は新たな仲間の事を知る意味で依頼を受けるべきかと)

 

(昨日腕をとられてまだ戦えないあなた如きがこのセレッタを馬鹿にするなど片腹痛いですよ?)


(……黙れスケベ馬、頭を叩き割るぞ)


 幽霊と対話してるわけではない。エルクリッドの妄想などでもない。

 リスナーが契約した魔物や精霊、アセスと呼ばれし仲間達の声。普段はカードの状態で待機状態となり、必要に応じて召喚される。


 エルクリッドが契約するアセスは四体。その内答えたのは二体のアセス、エルクリッドはふふっと小さく笑みを浮かべつつ街を見回しながら歩き進み、ひとまずある場所を目指した。


(喧嘩しないでよ二人共。それにスパーダさんの鎧を砕けるほどダインの力が強かったって事だしね、改めてよろしくねダイン)


(バウッ!)


 カードの状態のアセスの声は契約したリスナーにしか聞こえない。昨日契約したチャーチグリムのダインの元気の良い返事を聞いたあと、ふと、まだ喋っていないアセスに呼びかける。


(ヒレイ、起きてる?)


(……アセスが増えるのはいいが、お前の負担も考えろ)

 

(それ言われちゃうとな……でも強くなれば大丈夫だから)


 苦笑しつつエルクリッドがヒレイと呼ぶアセス答えるが、言葉の重要性は自覚済み。

 アセスの召喚を始め、それらは全てリスナーの魔力で行われる。契約した状態の維持もまた同様、アセスが増えればリスナーの魔力の負担も増えてしまう。


(簡単に言うな……とにかく余程のことがない限り俺を召喚するな、いいな)


(わかってるよヒレイ)


 カード入れから手を離して対話を終えた時、エルクリッドは目的地に到着する。


 セイドの街の広場。そこにある巨大な掲示板の前に多くの人々が集まり、貼られている様々な紙に目を通す。

 そのほとんどが何かしらの依頼書であり、街によっては専門の機関もあるらしい。


 が、この場所は人も多く、奪い合って争う者もいる始末だ。

 すぐ近くには別の広場があり、そこは依頼の奪い合いの際に腕を競って決める為の決闘場である。

 それを目当てに広場に来てる者もおり、また力を見て直接依頼をする者もいた。


 こうした場所は他にもある。荒々しくも賑わいがあり、エルクリッドもそうした雰囲気は嫌いではないものの、仕事を探すのも難しい状態なのも確かだ。


 一旦引き返そうとエルクリッドが去ろうとした時、ヒラリと一枚の依頼書が風で舞って目の前に。

 咄嗟にとって目を通し、ふんふんと小さく頷いて内容を記憶していく。


(リスナー募集、依頼内容と報酬は現地にて説明……随分キレイな字だなー……)


 よくあるリスナーを募集する依頼。だが具体的な内容はなく行ってから説明という、明らかに怪しげな依頼である。


 ただ字が綺麗であったのもあるからか、エルクリッドは依頼に悪意はないと直感し、場所もそう遠くないのでとりあえず向かってみることにした。

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