ビデオデッキ探索記

豊臣 富人

第1話 ビデオテープ

 年の瀬


 年末ということで、恒例の大掃除を始めた。やはり「今年の汚れ、今年のうちに」というわけだ。小学生のわたしには当然宿題と言うものが控えてもいるが、そちらの締切は来年だし、まだ慌てる時間じゃない。とっ散らかった我が部屋を片付けることが最優先という訳だ。

 猫の手も借りたいところだが、クロは「実際、猫の手が役に立つことはないですよ」と言って、本棚の上から見物を決め込んでいる。


 大掃除に限らず、掃除中はつい手を止めてしまうことが多い。昔よく読んでいた絵本、すっかり汚れたぬいぐるみ、3Dメガネ、ドラえもんの6巻——

「さようならドラえもんは、何度読んでも泣けるなぁ」

 そんなことをやっていたら、気付けばもう午後三時を過ぎていた。


 わたしは意を決して、普段はまず開けない押入れの奥の収納ボックスを引っ張り出した。ホコリを払い、蓋を開けると、中は父の私物だった。きっと子供の頃のものだろう、昭和の香り漂うガラクタ……いや、宝物がぎっしりと詰まっていた。


 知らないものがほとんどだったが、ガンダムのプラモデル(通称ガンプラ)や、キン肉マンの消しゴム(通称キン消し)は、以前父から教わったことがある。

「すごいですねこのコレクション。メルカリにでも出せば高値で売れますよ」

 クロが本棚から降りてきて、そんなことを言う。

「猫のくせにがめついやつだな。これはお父さんのだから、売っちゃダメだよ」


 わたしは、ガンプラの赤いロボの箱に描かれた、仮面をつけた赤い服の男に目を奪われた。「この仮面の彼、なかなかミステリアスでいいね」


 そう言いながらボックスを元に戻そうとしたとき、押入れのさらに奥に、黒いプラスチックの直方体が何本も並んでいるのが目に入った。単行本くらいの大きさで、ずっしりと重そうなやつら。

「なんだこれ?」

 わたしはそれらを引っ張り出した。中にテープのようなものが巻かれた、不思議な物体。いずれも背表紙のような部分にタイトルが書かれている。

「劇場版ガンダム めぐりあい宇宙」「大晦日だよドラえもん」「はだしのゲン」「あしたのジョー2」……


 興味津々でそれらを眺めていると、クロが「猫の手」でポン、と一本を指した。


「これはですね」


「ビデオテープ?」

 わたしは、初めて聞くその単語に、なぜだか少しだけ懐かしさを覚えた。

 クロによると、ビデオテープとは、テレビの番組などを録画して、あとで再生して観ることができる、という昔の記録媒体とのことだ。

「えっ、じゃあこれ、観られるの?『大晦日だよドラえもん』とか、絶対観たいんだけど!」

 思わず声をあげたものの、すぐにある疑問に気がついた。


「……でも、どうやって観るんだ?」

 わたしはビデオテープを陽にかざしたり、タブレットの上に乗せてみたりした。


 クロは呆れたように目を細めて言った。

「……何をしてるんですか。ビデオを観るには、が必要なんですよ」

「ビデオデッキ?」

 またひとつ、未知の言葉が飛び出した。

「そっかー、それ専用の機械があるんだな。そりゃそうか」


 押入れの中をひっくり返し、母にも聞いてみたけれど、どうやら我が家にはその「ビデオデッキ」なるものは無いらしい。

 仕方なく、ビデオテープたちはそのまま部屋の隅に並べておいて、大掃除を再開することにした。


 だかしかし、この「ビデオテープ」の存在を根底から揺るがす、ニュースが舞い込んでくるなんて、このときの私はまだ、知る由もなかった。

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