赫き花の家で、ひと夏、君に出逢った

あの日の蝉時雨と、眩しすぎる夏の光。
そして──赫々と咲き乱れる火焔のような花々。

迷路のような路地を抜けた先で、少年は出逢う。
白いワンピースに身を包み、遠くを見つめる少女。
彼女の名は、ミチカ。

言葉少なく、昏い瞳をしたその少女は、
まるで炎のように鮮烈で、同時にどこか透明だった。

火事で家を失い、母親を看取り、心にも身体にも火傷を負いながら、
それでも静かに笑う彼女に、少年は次第に惹かれていく。

彼女の家に絡みつくのは、蔓に咲く赫い凌霄花。
まるで失われたものすべてを抱くかのように、
屋敷を覆い尽くし、夏空の下で燃え続けている。

これは、ひと夏の出逢いと、ひとつの別れの記憶。
それは夢だったのか、現だったのか。

季節が巡るたび、少年は思い出す。
あの家の炎よりも赤く咲いていた、あの凌霄花を。

その他のおすすめレビュー

法王院 優希さんの他のおすすめレビュー1,083