Lux1:非現実へようこそ

【第1話】好奇心の扉



 ──知らなかった、

 この現実が、誰かの非現実になるなんて。


 光と影が交わる場所で、

 私は初めて、“物語の中”を歩き始めた。




────




 目の前の現実は、夢じゃない。物語の中の話ではない。



「父さん、再婚するから」


 そう突然言い出した父親にみおは目を丸くしつつも、次には「おめでとう」と声にだせていた。その後に続く言葉を理解しながら……


「一人暮らし、楽しみ!」


 そう、絞り出した本音は、半分本当で半分嘘。今まで育ててくれた父親の幸せを壊さないように。でも、まだ……1人になりたくなかった寂しさもあるから。


 それでも、笑顔で澪は育った家を出て行った。



 さあ、これから始まるマイライフ。おひとり様生活のお供には、やはり好きなスマホ小説。読むのが好きだから、手放せない。


 黒緑のショートヘアがトレードマークの女子高生のみおは最近は暇さえあれば小説を読んでいる。流行りの異世界とか、極道ものとか。現実では起こり得ないファンタジー恋愛。夢見るだけならタダ。誰かが作り上げた世界に浸る素敵な妄想。


 なんか、景気付けに新しい話を読みたいな……澪はそんなことを考えて夜道を歩く。コンビニでお目当てのチョコを買い、そのまま新しい自分の家へ。荷物は少ない。スクール鞄とスマホ、着ている制服のみ。増えたら捨てて、物を溜めないようにしている。


 いつでも、身軽に生きれるように。



 ふと、通りかかる廃れた倉庫で埋め尽くされる敷地。こんな暗がりに見ると、ホラーな雰囲気がするそこ。そういえば、ここら辺を仕切ってる怖い人たちの抗争現場がこことかどうとか……澪は少し興味が湧き、足を踏み入れた。


 話のネタになるかもしれない。危険ならすぐに逃げればいい。そんな軽い気持ちで澪はコソコソと倉庫の間を通る。


 ──バァンっ!


 耳をつんざく音。澪は音の大きさに思わず耳を押さえる。なんだ?と思っているともう一発。さすがに驚いてしゃがみ込み、動揺してしまった。


 ──え、いまの……?


 暗がりの中、足がすくむ。


 もしや、危険?澪がどうしようと考えていると複数人の足音が、近づいてきた。


 


────




 ──夢じゃなかった。

 けれど夢みたいに、始まってしまった。


 あの日のチョコの甘ささえ、

 もう思い出せないくらいに。



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