第7話 泣き崩れる女子高生
深夜一時五十分。
今夜もまた、チャイムが鳴った。
入ってきたのは、ブレザー姿の女子高生だった。
肩から重そうな通学カバンをぶら下げ、髪は乱れている。
こんな時間に制服のまま……それだけでも異様だ。
女子高生は無言のまま、おにぎりをひとつ取ってレジへ来た。
「いらっしゃいませ」
俺が声をかけると――その瞬間。
彼女は突如、ぐしゃりと顔を歪ませ、泣き崩れた。
「えっ、あ、あの……?」
床に膝をつき、肩を震わせて泣き続ける女子高生。
涙は止めどなく頬を伝い、床に黒い染みを作っていく。
ただの涙に見えない。
インクのように濃く、ねっとりとした黒。
「だいじょうぶですか?」
思わず声をかけてしまう。
だが彼女は顔を上げ、ぐしゃぐしゃの涙顔で俺を見た。
「……お兄さん、ここから出られるんですか?」
その声が、妙にくぐもって耳の奥に響いた。
胸の奥が凍りつく。
(出られるかって……何から? どこから?)
答えられずにいると、彼女はまた泣き崩れた。
その両手からポタポタと黒い液が垂れ、レジ前のマットを染めていく。
POSが勝手に作動した。
「お買い上げありがとうございます。
お支払いは、“なみだ”で承ります。」
背筋が跳ねる。
女子高生は立ち上がり、何事もなかったようにおにぎりを抱えて店を出て行った。
チャイムが鳴ってドアが閉じる。
次の瞬間、床に落ちていたはずの黒い涙の染みが消えていた。
(……幻覚か?)
震える手でレジを確認すると――
プリンターからレシートが吐き出されていた。
見慣れないフォントでこう記されている。
>『次の客:泣く彼女』
>『会計方法:涙』
>『おつり:ありません』
>『取引結果:カエレナイ』
頭がガンガンする。
休憩をとろうとバックヤードへ逃げ込む。
だがドアを閉める寸前、視界の端に入った。
――ガラスの向こう。
自動ドアの外に、さっきの女子高生がまだ立っていた。
黒い涙を流し続けながら、両手でおにぎりを潰している。
ぐしゃり、ぐしゃりと。
その潰れたおにぎりから、米ではなく、白い指がはみ出していた。
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