第32話 司書が戦う日

「よっしゃぁあああああ‼リベンジマッチだ‼」


 迂闊さんがそう雄たけびを上げると、パッとチェーンソー刀の【我儘丸】を何処からともなく出して、それを右手で掴んでギュンギュンと刃を回転させ始めた。僕的には【我儘丸】がトラウマになっているので、回転する刃をみるだけでも心臓の鼓動が早くなります。


「相変わらず下品な刀ですね。能力が人格を出してます」


 喧嘩中だったからか毒づく読子さん。けれど迂闊さんは彼女の言ったことを聞いていなかったのか、もしくは聞いていたけど無視をしたのか分かりませんが、そのまま金田さん達に突っ込んで行きました。


「うっしゃああああああああああ‼」


 そんな迂闊さんを見ながら溜息をつく読子さんは「迂闊さんは、いつも勢いだけは良いんですよねぇ」と呟きました。

 迂闊さんは容赦なく金田さんに斬りかかり、スプラッター的な光景が起こるかと僕は目を覆いたくなりましたが、迂闊さんが金田さんを斬るとボンッと言って、煙と共に金田さんの一人が消えてしまいました。


「あれは金田の分身の様ですね。本体だったら血しぶきをあげていたところです。迂闊さんも本体と分身の違いが分かっててやって……ませんよね、あの人なら」


 再び溜息をもらす読子さん。どうやら迂闊さんの行動には毎回気苦労が絶えないらしいです。


「颯太さん、私から離れないで下さいね。迂闊さんが金田の本体を切り刻む前になんとかしないといけませんが、私のここでの最優先事項は颯太さんの身の安全ですので」


「えっ、あっ、はい」


 僕の身の安全を守ることを優先してくれるなんて感激ですが、きっと本の世界に連れてきた責任があるからなんでしょうね。分かってはいますが今は素直に嬉しいとおもうことにします。


「それでは能力を行使します」


 読子さんがそう言ったので、僕は期待に胸を膨らませます。理知的な読子さんはどんな素晴らしいダイバー能力なのでしょう?

 すると読子さんは屈んで徐に自分のロングスカートの下に両手を突っ込みました。


「えっ?あの、読子さん⁉」


 あまりに淑女らしからぬ光景に僕は驚きましたが、読子さんがスカートの下から取り出したのが大きくて分厚い百科事典の様な本であり、両手にそれぞれ一冊ずつ持っています。

 

「颯太さん、私の能力は本を鉄に変える能力です。当たらないように気を付けて下さい」


 自身の能力の説明の後、読子さんの両手にそれぞれ持った本が、鈍く光る金属に変わっていくのが目に見えて分かりました。予想外の能力にコメントし辛いですが分かりやすい能力だとは思います。


「それでは参ります」


 ダッと駆け出す読子さん。そして一瞬にして金田さんの一体の頭を持っていた鉄本でボグッと殴りました。金田さんはボンッとまた煙を立てて消え、それが偽物であることが分かりました。もし本体だったら撲殺してたのでは?と疑問が生まれましたが、読子さんが迂闊さんみたいに考えなしに人を殴る人では無いと思い、そんな疑問は頭の片隅に追いやることにしました。


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