第26話 司書と一緒

 森本さんと森を歩いていますが、行きの時とは違い森本さんの歩く方について行くとすんなり歩いて行けます。きっと彼女が森を歩き慣れているからでしょう、エプロンドレス姿で身軽に動く彼女には美しさすら感じます。

 森本さんが虫よけスプレーを振ってくれたので虫も気になりませんし、快適に森林浴を楽しむ余裕すらあるのです。

 余裕が出てくると森本さんという人物のことが知りたくなってきました。なので思い切って僕は彼女の隣まで行って話し掛けることにしたのです。


「あの森本さん、質問良いですか?」


「はい、構いませんよ」


 無表情ながらも快く応じてくれた森本さん。本当にありがたいです。


「迂闊さんと腐れ縁だとおっしゃっていましたが、一体どういう関係なんでしょうか?」


 まずはこの質問、物静かそうな森本さんが、どうして騒がしい権化みたいな迂闊さんと知り合いなのか、その事が気になって仕方ありません。


「ただ高校が同じで同級生だっただけです。それ以下でもそれ以上でもありません。まぁ、友人と言っても差し支えないかもしれませんね」


 えらく回りくどい言い方をされましたが、要するに高校からの友人同士ということでしょうか?出会いなどの経緯も気になりましたが、あまり根掘り葉掘り聞くのも失礼かと思い、別の質問を投げ掛けてみることにしました。


「森本さんはどうして森の中に一人で住んでいるんですか?それもあれだけの本に囲まれて」


 この質問に森本さんは僕の顔を見て、真剣な顔でこう返してきました。


「多くの本を守るのが自分の使命だと感じています。ゆえに人気の無い森の中に図書館を作ったのです」


 図書館、やはり図書館だったんだ。それにしても一人の女性が本を守るという名目の為に図書館を作るなんて、キッカケは何だったんでしょうか?これまた根掘り葉掘り聞けないなと思ったので、僕はグッと口をつぐみました。


「まぁ、図書館と言ってもお客さんなんて来ませんし、仮に来たとしても客は選んでしまいますがね」


 薄っすらと冷笑を浮かべる森本さん。どんな感情で笑っているのか分かりませんが、これが彼女が見せてくれた初めての笑顔であることは間違いありません。


「颯太さん、一つお願いがあるのですが良いですか?」


「なんでしょう?」


 質問に返答してくれたので、出来るお願いなら何でも聞く所存でしたが、森本さんは意外なお願いしてきました。


「私のことは読子と下の名前でお呼びください。父から貰った大切な名前なので気に入っているんです」


 真顔でそんなことを言うので冗談では無いんだと感じ、僕は森本さんの要望に応えることにしました。


「分かりました……ど、読子さん」


「はい、ありがとうございます」


 それだけ言うと彼女は前を向き直し、スタスタと歩いて行きました。

 読子さんは何処かミステリアスな人ですが、それも含めて魅力的な人だと思います。




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