第18話 宮本 迂闊という女

「えっ、別に話したいことなんて無いです」


 本当に本心から僕はそう言ったのですが、言葉って難しいですね、迂闊さんは問答無用で僕の部屋に入って来ました。

 そうして部屋の真ん中に胡坐をかいてドカッと座わり、どうやら居座る気満々の様です。 


「うふ♪それでお姉さんに話したいことって何♪」


 無いって言ってるのに。この人耳が付いてないのかもしれません。でも考えてもみれば、同居人のことを少しでも知っておいても損は無いかもしれません。まず何を聞こうかな。僕も部屋の隅に座り、何か迂闊さんに聞きたいことが無いか考えることにしました。


「あっ、今私でいやらしいこと考えてるだろ♪んもう♪スケベ思春期め♪実年齢考えろ♪」


 挑発する様にわざとらしく胸元を隠す迂闊さん。この自意識過剰女め。

 とは言いつつも、男女が密室で二人っきり、その上で迂闊さんはスタイルだけは良い女の人なので、ちょっとばかり緊張してしまっているのも事実です。ジャージの上からでも分かるぐらい、彼女の胸は大きく膨らんでいました。


「ちなみに私はGカップはあるんで、そこんとこよろしく♪」


 そう言いながら自慢げに胸を突き出す迂闊さん。僕の思考が読まれているのかと戸惑いましたが、多分偶然だろうと自分に言い聞かせて平静を保ちました。スタイルの良いことを自覚して、自分の体に自信がある人が一番質が悪いです。


「触らせるのは無理だけど……揺らそうか?今晩のおかずにどうよ?」


「げ、下品な事ばかり言わないで下さい」


 こっちとら26歳とはいえ、心も体も16歳なんだから、あまり過激なことを言われると困ります。てか全然質問させてくれないし。


「もう変な事ばっかり言うなら帰って下さいよ」


「悪い悪い♪思春期男子をからかうのは楽しくってよ♪カッカカカ♪」


 リアルでカッカカカ♪って笑う人を初めて見ました。本当にこの人変な人だな。ある程度質問したら早く帰ってもらおう。


「ブック・ダイバーって人を救い出す以外に仕事あるんですか?」


 まずはブック・ダイバーについて聞いてみることにしました。やっている人に聞くのが一番ですもんね。


「無いんじゃね。上の方になってくると知らんが、私は引き上げ専門だ。ちなみに副業が出来る職業だから他の仕事も出来るぞ。まぁ、不定期に仕事が来るから」


「なんか曖昧ですね」


「うるせーな、別に良いだろうが、文句あんのかよ」


 一気に機嫌が悪くなる迂闊さん。ガンの飛ばし方が完全にヤクザです。そんなに怒らなくても良いのに。気をとりなして他の質問を。


「迂闊さんも本に沈んだことがあるんですか」


「まぁな、この迂闊様でも気分が落ち込む時があるんだよ、スゲ―だろ?」


「別に凄くは無いですけど、その時はブック・ダイバーに救い上げられてもらったんですか?」


「……チッ」


 えぇ、舌打ち?舌打ちされた。メチャクチャ態度悪いんですけど。


「別に助けてもらった覚えはねぇ、アイツが勝手に本の中に入って来ただけだ。私は自力で出るつもりだったんだ」


「アイツ?誰なんですそのアイツって」


「まぁ、そのうち会うこともあるだろうから、それまで楽しみにしておけ」


 気になる。アイツって誰なんだろ?迂闊さんを本から引き揚げたブック・ダイバーさんに興味が湧きました。


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