第13話 お宅訪問

 玄関で靴を脱いで宮本家の中に入りました。宮本家は年季の入った、これぞ日本家屋といった感じの家です。木の廊下は歩けばギシギシと音が鳴るし、柱に身長を記録した傷とマジックで書いた名前があり、そこには宮本 迂闊さんの身長の変遷が分かるようになっています。

 他にも風鈴が下げてあったり、価値があるかどうかわからない富士山の絵なんかが飾ってあり、何だかノスタルジックな気分になります。

 臭いわけではありませんが俗に言う人の家の臭いが充満しており、これは何から来る臭いなのか多少気になったりもしました。


「この階段を登れば迂闊さんの部屋があります」


 仲介屋さんが指し示す階段の方を見ると、薄暗くて結構急な階段があり、ハッキリ言って少し不気味だと感じてしまいました。お化けとかが這って降りてきそうな気配があります。

 僕がそんなことを考えていると、上の方から突然怒鳴り声が聞こえてきました。


「くそがぁああああああああああああ‼」


 あまりの大きさに僕は耳を塞いでしまいましたが、あの声は僕を引き上げた人によく似ていた気がします。


「ほぅ、迂闊さん大分ピンチみたいですね、さて、二階に上がってみましょうか」


「だ、大丈夫なんですか?少し待ってからの方が良くないですか?」


 僕がそう聞くと仲介屋さんはニコッと笑ってこう答えました。


「そんなことしていたら日が暮れてしまいます。迂闊さんの機嫌が悪いにしてもその理由を知りませんとな」


「そ、そうですか」


 流石はプロの仲介屋さん。とはいえ仲介屋さんの仕事の全てを把握したわけで無いのですが、とにかく人間としての年季の違いを感じました。


「急な階段ですからな、気を付けて下さい」


「はい、気を付けます」


 仲介屋さんの後を追って急な階段を一歩一歩踏みしめながら進んで行くと、そこには廊下があり、左右に同じ襖の扉がありました。


「こちらの左の方が……」


「だぁ‼なんでだぁあああああああ‼」


 仲介屋さんが言い終わる前に、左の方から迂闊さんの怒号が聞こえてきました。僕はすっかり左の襖を開けたくなくなりました。


「颯太さん、そんなに嫌そうな顔をしないで下さい。人生にはたくさんの苦難の先に幸せがあるのです」


 仲介屋さんが諭すようにそう言いますが、僕はこの苦難の先に幸せがあるとは到底思えませんでした。しかしながら逆らえる立場でないことも知っているので、僕は溜息をつきながらも左の襖の方に向かいます。


「では開けますぞ」


 仲介屋さんが襖を横にスライドさせて開けました。すると開けるや否や、ある物体がコチラに向けて飛んできました。仲介屋さんはすぐに頭を下げてそれを避けましたが、後ろに居た僕の顔面にその物体がゴチーン‼と当たったのです。

 痛みと衝撃から後ろに倒れる僕。何が起こったか全くもって分かりませんでしたが、目を開けると僕の傍らにはスマートフォンが置いてあったので、これが飛んで来たのだと理解出来ました。

 ほら見ろ、幸せなんてありゃしないんだ。僕の人生悪い事しか起こらないんだ。

 自分の顔面を右手で擦りながら、僕は自虐的なことを考えてしまうのでした。

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