第2話 壊れゆく日常
「ア、アナタさっきから何なんです?何を訳の分からないことを言って……頭おかしいんじゃないですか⁉」
僕の人生の中でこんなに激しく感情を他人に向けたことはありません。どうしてこんなに心が動揺しているんだろう?
「誰が頭おかしいって‼この野郎‼アタシはな自分を批判されるのが大嫌いなんだよ‼ぶち切れるぞ‼」
「もうキレてるじゃないですか‼」
こんな風に人と言い合いするなんて何年ぶりだろう?施設長が生きている時は……ん?施設長?誰だそれ?
すると突然、僕の頭に優しくも厳しそうな女性の老人の姿がフラッシュバックします。どこか懐かしい気分になるのは何故でしょう?その人が僕に向かって言うのです。
『いいかい、本は読むものだ。けっして逃げ場所にしてはいけないよ』
愕然とした気分になる僕。今の僕にこんなに刺さる言葉があるでしょうか?
頭の混乱が激しくなってきて、気持ち悪くて吐き気もしてきました。
「どうした?気分悪そうだな?もしかして記憶が戻って来たか?」
「……はぁ、はぁ、だから訳の分からないことを言わないで下さい」
訳の分からないこと?本当は僕が分かろうとしてないんじゃないだろうか?本当は……本当は……
「うわぁあああああああああああああ‼」
僕はその場で頭を抱えながら叫び声を上げました。
誰か助けて、誰か助けて下さい。僕から居場所を取らないで下さい。
すると、僕と宮本さんの間に高橋先輩がスッと入り、僕を庇う様に宮本さんを睨め付けます。
「貴様いい加減にしろ。我が主の居場所を奪おうとするな」
口調がいつもと違う先輩。堅苦しいというか妙に芝居がかってます。まるで別人になってしまったようです。
「へぇ、アンタそいつが生みだした幻かい?結構な美人さんとおままごとしてたんだな。これだけ美人なら、そりゃ10年間も引きこもってられるわな。颯太君よぉ」
人を馬鹿にするように笑う宮本さん。おままごと、10年間引きこもり、やめてくれ、これ以上僕に思い出させないでくれ。
「これ以上、我が主を気付つけることはまかりならん。我が槍のサビになるが良い」
決意を決めた高橋先輩が、長い後ろ髪をゴムでまとめてポニーテールを作る。その際に体がまるで影の様に真っ黒になり、気が付くと真っ黒い西洋の鎧のようなものを身に纏っていて、右手に大きなランス、左手には丸くて大きな盾を持っていました。僕の知らない先輩、の筈なのに何故か懐かしい。
高橋先輩は僕の方を向いて、先程の告白の時の様な笑顔を見せます。
「主、すぐに終わらせます。そしたらまた夢を見ましょう」
「あぁ……
影壱号。自然と出た高橋先輩の本当の名前。思い出してもすぐに忘れる。大丈夫、全てが元通りになる筈だ。
「おぉ、そっちがやる気なら、こっちもやる気出しちゃうよ♪
宮本さんがそう言うと、いつの間にか右手に鞘の付いてない刀の様なものが握られています。刀のようだと言いましたが、刀の形状はとても奇抜でして、機械的なチェーンソーの様な形をしています。ハッキリ言って悪趣味なものだと思いますが、宮本さんにはピッタリだなぁと感じました。
「スポーツチャンバラで鍛えた私の腕前、とくと見な♪」
”ギュアアアアアアァアアアアアアアアン‼”
宮本さんの刀の刃がけたたましく音を立てます。この僕の世界を壊しに来た死神を影壱号に早々に処理してもらうことにしましょう。そして僕はまた深く深く沈んでいくのです。
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