ブック・ダイバー~本に潜行するのが仕事の人たちのこと~
タヌキング
第1話 放課後~憧れの先輩と~
僕の名前は
今日はそんな先輩に告白しようと、先輩を図書室に呼び出したところです。上手くいくなんて思っても居ませんが、この想いを先輩に伝えられるだけで僕は満足です。
「颯太君、話って何?」
赤い長い髪をなびかせ、キョトンとした顔で先輩が僕を見てきます。窓から差してくる夕焼けの光が、美しく先輩を照らします。
僕はなけなしの勇気を振り絞って先輩に告白することにしました。
「高橋先輩、僕と……僕とお付き合いしてくれませんか?」
あがり症の自分にしては意外とすんなり言えた気がします。これを聞いた先輩は少し戸惑った顔をしました。やはり返事はNOなのでしょうか?僕に緊張が走ります。
ですが先輩は暫くして満面の笑みを僕に見せてくれました。
「良いよ……私も颯太君のこと好き」
「えっ?」
思考が追い付きません。高橋先輩は何を言っているんでしょうか?
「先輩、言っている意味が……」
「だから付き合いましょ。私達は相思相愛なの」
「そ、そんなバカな」
夢にしても出来過ぎています。憧れの先輩が僕のことを好きだったなんて、そんなことは物語の中でしかあり得ないことです。現実にそんなことが起きる筈がありません。
「もう、どうして告白した人が一番戸惑ってるの?とにかく付き合いましょ♪私があなたの居場所になってあげる♪」
本当なのだろうか?本当に先輩が僕のことが好きで、僕の彼女になってくれて、僕の居場所になってくれるというのだろうか?僕の目から自然に涙がこぼれました。
「せ、先輩、良いんですか?こんな僕でも」
「何を言っているの、アナタだから良いんじゃない」
先輩は泣いている僕を優しく抱き締めてくれました。先輩は温かくて僕の心は満たされていきます。こんなのいつ以来でしょう?もう長いこと得たことの無い感覚です。こうして僕は先輩と恋人同士になりました。出来ればこの幸せがいつまでも続けば良いと……。
”ガラガラ……ピッシャーン‼”
突然、図書室の前の方の扉が乱暴に開けられました。驚いて僕はそちらの方を見ると、上下に赤いジャージを着た目付きの悪いショートヘアーの女の人が立っていました。歳は20代前半に見えますが、この学校の体育教師でしょうか?いや見覚えがありません。一体全体この人は誰なんでしょう?
僕が困惑していると赤いジャージの女の人は大きな声でこんなことを言い始めました。
「イチャイチャしてるところ悪いな‼私の名前は
僕のことを右手で指差しているんで、もしかして助けるって僕のことでしょうか?こんな人に助けられる覚えは無いんですが、人違いじゃないでしょうか?
「あ、あの人違いじゃないですか?」
「いや、お前だよ。小野 颯太」
どうして僕の名前を?何故だか知らないけど冷や汗が出てきます。絶対にこの人と関わってはいけない。この人は僕の世界を壊しに来た人だと直感的に分かりました。
「小野 颯太。今まで本の中で好き勝手してたみたいだが、今日でそれもおしまいだ。この私がお前を引き上げてやるよ。我儘気まま、気の向くままによ」
ニッと笑う宮本さん。この人を早く排除しなくては、僕のこの世界を守るために。僕は逃げ出したくなる気持ちをグッと堪え、宮本さんと相対することにしました。
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