OPENING

 それは、輝く真夜中。

 高層ビルがにょきにょきと背を伸ばす、とある大都市の中心街。

 地上をずっと下に見下ろす巨大なネオン文字の、真ん中の一文字の上に一人の少年が立っていた。

 片手には白い狐面。

 綺麗に整った顔立ちに浮かぶのは、不敵な笑顔。

 一つに結った髪を、夜の強い風が吹きさらす。

 高い位置にある見慣れたネオンに、地上でざわめく人は見向きもしない。ましてそんな細い足場に、子どもが立っているとは誰も思わないだろう。

 反対に、少年は夜の町並みとうごめく人ごみをじっと見すえていた。

 ゆっくりと唇が動き、紡ぎ出された声が、風の中で鮮やかに響く。

「任務、終わったよ。で、この後はどこ行けばいいんだっけ? ……ああ。そうだそうだ」

 くすりと、唇からもれるかすかな笑い声。

 切れ長の美しい瞳が、すうっと細められる。

 ささやくようにボリュームを落とした声。

「だーいじょうぶ、ちゃんと覚えてるよ。……じゃ、俺もう行くねー」

 細めたままの目で、すぐ下に広がる夜の街を見下ろし。

 ふわりと、その足がネオンサインから離れた。

 髪と振袖がひるがえる。


 ぞっとするほど美しい紅い月が、ただ夜の空に飾られていた。





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