第9話「約束のプロポーズ」

「プロポーズした日に亡くなるなんてね」


亜希の言葉が頭を離れなかった。


「ねぇダウ」

「ん?」

「優依の亡くなる日ってわかったりするの?」

「え?いや正確なのは予測できないけど今だって毎回変わってるし」


確かにそうだ。

一回目にこいつの葬儀に来た日は冬の寒い日だった。

でも今は秋頃になってる…

一体何をきっかけに変わっているんだろう。


「俺がプロポーズした日に亡くなったみたいなんだ」

「そっか」

「それってさ次にやり直す時プロポーズしなければいいってこと?」

「ううん、出来事は関係ないと思う。過去を変えたからには未来は変わる」

「それって…」

「うん、死期が早まっちゃってるのかもね」

「どうすれば」

「次にやり直すのはここからそう遠くない過去だと思うの」

「うん」

「だから本当の戦いはここからだからね、見たことない世界で戦うの」

「わかった」

「信じてるよ、大智のこと」



そう言うとダウはいつも通り指を鳴らした。

その瞬間目の前が真っ白になった。



「OK!目的地セット完了!」


優依の声だ!


「優依!」

「何どしたの?」

「いや、お前がいるのが嬉しくて」

「きもっ、なに浮気したの?」


何も知らない世界の俺はそんなに愛情表現も少ないんだ…


「ほら、ぼーっとしてないでコストコ行くよ!」

「あ、うん!」


一回目の人生から考えたらありえないぐらい普通のカップルとしての行動に

俺は常に笑顔が出てしまうほどに幸せだった—


「ねぇこれも買う?」

「あーでも食べ切る?」

「舐めんな、私の胃袋」

「はいはい」

「そうだ、和哉と香織も呼んでパーティーしよっか!」

「うん、しよしよ!」


また現実世界に戻るなんてことも忘れて

普通のカップルのような日々を過ごしていたある日のことだった。


「ただいま」

「おかえり、テーブル見て」


優依に言われるがままテーブルにふと目をやると

そこには結婚雑誌のゼクシィが置いてあった。


「お前…これ」

「は?なに?今月の付録が良かったから買っただけだし」

「あっそ」

「まぁしたくないとは思ってないけど」

「素直に言えや。俺はしたいと思ってるよ」

「まぁ私もしたいけど」

「おいで」


俺は優依を強く抱きしめた。


「ごめんな待たせて。幸せにするから」

「だるっほんと…充分幸せだし」


きっとこの世界線の俺は何回もこいつのことを抱いているんだろうけど

俺はその夜初めて優依を抱いた。


「私がおばさんになってもさ、こうやってスキンシップしてくれる?」

「多分」

「はぁ?しろよ」


するに決まってる。そんなのも含めてお前を救いに来たんだ。





一方その頃そんな二人を私はなんでも見れるこの特別なレンズで眺めていた。


「いい男になったな。大智、優依ちゃんも可愛い」


私は大智の人生のセーブ係としてこの男をここまで育て上げたことを誇りに…

なにこれ…優依ちゃん…

早く、大智に伝えなきゃ—。





また、別の日。

俺と優依は二人で深夜にアイスを買いに行った。


「お前太るぞ」

「深夜のアイスなんか彼氏にしかついてきてもらえないしね」

「はいはい」


商店街を通って帰ると

ウェディングドレスをショーケースに入れたお店が目に入った。


「ねえ、私はいつこれを着れるんでしょうか?」


優依も同じこと思ってたんだ。


「そのうち着てもらいますよ」

「あら、そうなんですね」

「お相手は僕でよろしいでしょうか?」

「お付き合い頂けますか?」

「もちろん」


俺はやっぱりこいつしかいない。そう思えた夜だった。

早く帰ろう二人で住むあったかいあの家に—









「早く大智に伝えなきゃ、優依ちゃんの死期が今日になってるってこと…」











「なぁ!優依早く帰ろ」

「うん!」

「帰ったらさ一緒に映画でも…」



その時とてつもない大きな音がした。信号無視の車が巨大な事故を起こして

優依に突撃しようとした。

なんでこんなに世界がスローモーションに見えるんだ…

そっか俺に残された最後のチャンスだ。優依を守るにはこれしかない

もっと早く知りたかった。今日だって、だったらもっとちゃんとプロポーズしたのに

でも俺は考えるより先に体が動いた。



「今までありがとう、優依」



その言葉を俺は小さな声で伝え優依を押し飛ばした。






「早く救急車!!!男性が車に轢かれたんです!」




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