死にたいのに死ねない日々について

今日も、何気ない日々が流れていく。

小鳥は楽しそうにさえずり、花は風に揺れ、蝶は自由に羽ばたく。

人もまた、自然の中で生きている。


肩を寄せ合い歩く恋人たち。

笑い声をあげながら駆けていく子どもたち。

カフェのテラスで紅茶を啜り、談笑に花を咲かせる女性たち。


――けれど、俺は違う。

世界は動き続けているのに、俺だけが止まっている。

いつまで経っても「明日」が来ない。


世界は常に流れているのに、俺は取り残されたままだ。

今日でもう何日目だろう。

途中から数えるのが億劫になってしまった。


もう、死ななくなってから10年だ。

体の成長は止まった。どうやら「寿命」がなくなったらしい。

――ナイフで胸を突き刺す。鋭い痛みが走り、直後……

傷が消える。


復活までの時間は、既にゼロに近い。

再生が早すぎて、腕を切る程度の傷では切った所から治ってゆく。


暇だったので、色々とやってみた。

女装した。一ヶ月で飽きた。

筋トレした。半年で飽きた。

体を売ってみた。かなり持ったが、最近飽きた。


この世の全ての料理は食べたと思う。

キャビアなんてのはただの魚卵だ。

フォアグラも、椎茸のほうがまだ美味い。

シュールストレミングは……カメムシのほうが臭かった。


結局そんなもんだ。食べ物なんて。

結局、悠久の時を過ごす俺にとって、全てのものは単なる物質に過ぎない。

全ては単なるエネルギーの集合体なのだ。決まった物理法則の中で動くだけ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

死にたいのに死ねない日々について 遥風のあら @haiyo_666

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ