たんぽぽ、しゃべる

 いま、オレは最大のピンチを迎えている。


 せっかく頑張って、やっと今日、花を咲かせたばかりなのに。

 よりにもよって、オレの天敵――子どもが向かってきてるじゃないか!!


 思い出す。オレがまだ綿毛だったころのこと。

 子どもに見つかり、ちぎられてしまったのだ。

 おまけに、思いっきりブンブンと振り回されて、オレはあえなく散ってしまった……。

 本当なら、自然な風に乗って、優雅に舞う予定だったのに!


 ――いかんいかん!

 前世のトラウマは置いといて、今どうすべきか考えろ!


 しかし、すでに子どもはすぐ近くまで来ている。

 のっしのっしという足音が、恐怖を駆り立てる。


 ――気づくな、そのまま素通りしてくれ!


 でも――


「たんぽぽ、みーっけ!」


 ぎゃーーーー!!

 見つかってしまったーーーー!!


 子どもがまっすぐ、オレに手を伸ばしてくる。

 く、くるな……やめてくれ……!


「お、おれに触るなーーっ!!」


 思わず叫んだ。


 すると、子どもの手がピタリと止まった。

 目をまん丸にして、オレを見ている。


「……え? たんぽぽ、しゃべった?」


 えっ。

 まさか……。


「オレの声、聞こえるの?」


「わぁ! しゃべった! すごーい!」


 子どもは、ぱあっと笑顔を咲かせた。

 まさか、子どもにオレの声が分かるとは。

 ……なんだか知らんが、助かった……?


 よし! それなら、頼んでみよう。


「なぁ。オレのこと、ちぎらないでくれる?」


「えー? しゃべるたんぽぽ、みんなに見せたいのに!」


 うっ、なんてこった……。

 このガキ、オレを晒し者にするつもりか!


「頼むよ。オレ、ここでずっと咲いてたいんだ」


「んー……」


 子どもは、ちょっと考えるように首をかしげた。


「じゃあさ、今度、めちゃくちゃイケてる“たんぽぽソング”歌ってやるから」

 

「えー! うたえるの?」

 

「もちろん! しかも、イケメンボイスでな!」


「やったー! じゃあ、ちぎらない!」


 子どもは素直にうなずいた。

 やった。話せば、わかるじゃないか……!


 しかし――その油断が命取りだった。


「でも、やっぱり、おうちにもってかえる!」


 ぷちっ。


 ……ちぎられた。


 オレは――中途半端な茎のまま、持ち帰られてしまった。

 せめて……せめて、茎はちゃんとちぎれよ!!


 ちきしょーっ!

 綿毛にも、なれなかった。


 さらば、たんぽぽ人生――。

 次、生まれ変わったら、風になりたい。

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