耳をすませば、「君との夏」がそこにいた

神崎 小太郎

前書き 作品への思い

「こえけん音声化短編コンテスト」ボイスドラマ部門に応募した短編小説です。


 この物語には、音色でしか呼び覚ませない記憶や、声にしなければ消えてしまう想いが静かに息づいています。その響きは、心象風景をやわらかく包み込み、甘酸っぱくも切ない青春の断章を紡ぎます。


 本作品は、耳で聴くことを前提とした音声ドラマの台本として書かれています。言葉と音、そして声が紡ぐこの夏の記憶を、ひとつの自由詩に託しました。どうぞ、心で味わう世界として、そっと耳を澄ませていただけたら幸いです。


 *


 風音(かざね)となりて、あなたへ


 春には 淡く香る花弁となって

 頬をくすぐる 薫風にまぎれ

 あなたのそばへ そっと寄り添う


 夏には 海に瞬く星のひとつとなり

 迷わぬように あなたの道を

 やさしく照らす


 秋には 紅に染まる葉となって

 さやさやと揺れる風に想いを乗せ

 あなたの肩へ 静かに愛を降らせる


 冬には きらめく風花に姿を変え

 凍てつく空に 小さな祈りを

 光にして舞わせる


 朝には 小さな鳥となって

 やさしいさえずりで 新しい一日へと

 あなたをいざなう


 夜には おぼろに霞む月となり

 眠るあなたを 静かに 見つめている


 たとえ この世界に もう姿がなくとも

 どうか 忘れないで


 わたしは――

 季節を渡る 風音となって

 遥かなる 空の高みから


 今もずっと あなたを包んでいる

 触れられなくても ぬくもりのように

 いつも そばにいる


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