バーサーカーお嬢様!〜これが聖女ってマジですか?〜
酩蘭 紫苑
第1話 これで良いの
※ 本作には、いじめを含む表現があります。
これらの表現に不安を感じる方は、閲覧をお控えいただくか、慎重にご判断ください。
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踏切の前で電車が通るのを待っていると、後ろから何かが投げ込まれたようで、頭に変な感触がやってくる。
「見ろよwww当たったぜwww」
振り返ると同じクラスの板山達がいた。
「やめてぇや」
下を見ると空き缶が転がっていた。
「鈍臭いのが悪いwww次は避けろよ」
電車が通り過ぎ、踏切の遮断棒が上に上がる。
それと同時に彼らは楽しそうに学校へ向かっていった。
私は捨てられた空き缶を手に取る。
(これ…-どうしよう)
近くにコンビニはないし、自販機もない。
捨てる場所は行き道の中でもう学校しかなかった。
私はお腹がきりきりするのを我慢して学校へ向かった。
学校へ着くと当然のように私の机に誰かが乗っている。青桐だ。クラスのカーストトップとも言える彼女は私の机に尻を引き、お菓子を食べている。
お菓子のカスがぼろぼろと私の机に落ちていくのが見えた。
「おはよ。そこ……私の席やからええ?」
「無理だよw他の席座ったら?」
「いや……そこ、うちの席やし」
「無理だって言ってんじゃん」
彼女はいきなり声を大きくして
「ちょっとー!
周囲の視線は私に向かっていた。
「サイテーwww」
「なんで青桐に喧嘩売ってんだよ。馬鹿だろあいつ」
「また絡まれてるんだね……かわいそ」
私が悪いの?
私の机なのに。
「はぁ。マジしけたわ。代わりにお使い行ってきて。メロンパン。あとでお金返すから」
「も、もう朝礼始まるし……」
「あ?急いで行ってきたら間に合うっしょ。ほら急いで急いで」
彼女やその周りは手拍子をしながら数字を数えだす。その音が私を急かすんだ。
私はその場から去るように猛ダッシュをして教室を出て一階の購買に向かう。
朝のギリギリのこの時間だというのに運動部が練習終わりなのか、混んでいた。
(これじゃ間に合わない……)
「青嶺ー!あれ?いないのか?」
「最初からいませんよ!」
「言い過ぎwww」
「こらこら!そんないじり方は今の時代、ダメだからな!」
私はなんで教室の扉の前に立っているんだろう。
入れば良いのに。
私は何で菓子パンを握りしめているんだろう。
せっかく買ったのに。
私はなんで……。
私は気がつけばダッシュしていた。
誰かに命令されたわけじゃない。
どこに向かっているのかもわからない。
ただ今はここから消えたかった。
気がつけば家の前にいた。
私は両親が家にいないことをポストを開けて鍵の有無から確認すると中に入る。
そして2階にある自分の部屋のベットに倒れ込む。
(荷物……どうしよう。連絡……親に行くかな)
下の方からドアが開く音がする。
おかしいな。今日は二人とも夜まで仕事のはずなのに。
階段を降りてリビングに行くと父親が知らない女性といた。
「
相手の女性は大胆な服を着て、彼に密着している。
「パパ、これってどういうこと」
彼はズボンから財布を取り出すと万札を突き出す。
「ママには内緒にしてくれ。これあげるから。足りないなら、ほら」
追加でもう数万円が足される。
「友達とカラオケでも行ってきなさい」
私の居場所は家にもなかった。
パパ、私、友達いないんだよ。
高架下でうずくまっている。
川の嫌な匂いもするし、虫もたくさんいる。
けど私にはもうここしかなかった。
「あれ?青嶺?ちょやばくね?」
嫌な声だ。
私の足が彼女の声に振動しているように震えだす。
「ねぇ。何でサボったの?うちらよりやばくない?」
私は逃げようと頭の中で考えていても動けずにいた。足に力が入らないの。
「ねぇ、どういう感じ?この前髪のせいで顔がわからないな。あ、アキミッチ、スキバサミあったよね?」
「ちょwwwまじ?」
「良いじゃん良いじゃんwwwうちらで可愛くしよ?www」
最悪なシナリオが頭に浮かんだのにも依然として動けずにいた。体の震えと寒気が止まらない。
「そんな震えてたらミスっちゃうからやめてねー。ちょきちょき〜www」
「やっばwwwやりすぎでしょwww」
「可愛いじゃんwww」
細いはずの髪の毛がバサバサと音を立てて落ちていく。
「切りすぎた?www」
「うんwww」
「もーどうせならもっと切ろっかwww」
やめて。やめて。お願いだから。
私は彼女の腕を抑えるけどすぐに押し負けてしまう。
「なに?私に反抗するの?」
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
そんな顔を近づけないで。
「青嶺ってさー。体も声も小さいし?胸も小さいしwww誰に勝てんの?www」
「胸は言わなくてもいいっしょwww」
「そだ!なんか足短く見えるよ?このスカート。切ってあげる」
私は必死に抵抗するけど複数人じゃ敵わない。
もともと一人でも勝てないのに。
「ここにライン入れたらカッコよくね?」
「そこ入れたら全部切れちゃうからwww」
「ちょきちょき〜」
スカートの前方が右から左下、斜めにバッサリと切られる。
「やばwwwパンツ見えてんじゃん。ダッサ。水色のパンツ?」
「このセンスはないわwww」
私はなぜ彼女にこんなことをされないといけないのだろう。
「……んで」
「ん?」
「なんで、こん、なことするの」
私は鼻水やら涙が止まらない状態で必死にしゃっくりを抑えながら聞いた。
「あんたが最悪だから。普通好きな人取る?今でも恨んでるから。あんたは幸せになっちゃいけない。絶対に」
「そ、そんなこと知らない」
「私は知ってるから。竹村くん。覚えてるでしょ?もう来なくなっちゃったけどwww」
そこからの記憶は一切なかった。
今が夜だということしかわからない。
時刻なんて知らない。
家に着くとパパとママは怒鳴り声をあげてるし、何かが割れている音が外からでも聞こえてくる。
扉を開けて中に入ると二人の動きが一瞬止まる。
「どうしたんだ!そんな格好!」
「何をしているの?!頭おかしいんじゃないの?!」
ママの高い声が耳に入ってくると毎回聞こえづらくなる。「ツーン」って音が鳴る。
「これもあなたが家庭のことを大切にしないからよ!」
「ふざけるな!誰が馬鹿みたいに謝りながら働いていると思ってるんだ!」
私のことはもう、どうでも良いの?
もう考えるの、疲れた。
「パパ、昼間、知らない女性を家に入れてた」
「ど、どういうことなの?!」
「嘘を言うな!」
「ほんとだよ。そこ、ソファーの下、下着が落ちてるから」
「おまえぇぇ!」
私は家を飛び出した。
何故だか笑えてくる。
いつも胃が痛くてトイレで吐いている毎日だったけど。吐けるものなくて透明な液しか出なかった毎日だけど。
なぜか今笑ってる。
私がもし、強かったらな。
あんな奴ら、消せるんだろうな。
私がもし、身長が高ければな。
舐められないんだろうな。
私がもし、人目を無視して好きなように生きれたらな。
人生、楽しくて長かったんだろうな。
「お嬢ちゃん?危ないよ。そんなに前に出て。お嬢ちゃん?」
横の老婆が何か言っているが、耳鳴りがしてわからない。
「ほら、もうすぐ電車が来るよ。危ないよ」
どこかに行こう。
遠く。
あの学校を超えて。
「ギュチュイイイイイイイン!」
あれ、何でだろう。
いきなり耳鳴りが消えた。
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