第2話
はっ、と目が覚めた。
起き上がった寝台の上で長閑な鳥の鳴き声を聞く。
視線を脇にやると離れた所にある窓辺に小さな鳥が降りて来て、ちゅんちゅんと可愛い声で鳴いていた。
小首を傾げて陸遜の方を見ていたが、やがて飛び立って開いた窓から出て行く。
部屋の外へと出ると、そこからは
石の都を見下ろす、高い居城。
(今この瞬間ここから身を投げれば、確実に命を失える)
遥か地面を壁に凭れかかった姿で見下ろし、陸遜はそう思った。
今まで陸遜は、今のままの自分が死んだら、あの世で待っているであろう
彼は実子の
今よりも自分がもっと未熟で、弱かった時期のことだ。
それでも彼は陸遜の未来に賭けてくれたのだ。
だからそんな自分が何も成さずに死んで会いに行くのは申し訳ないと思っていた。
でも。
……ここはとても静かな所だ。
新しい都。
戦火もここには及ばない。
民は朝になれば目覚め、夜には火をともして家族が寄り添い、
夕食を食べ、安心しながら眠りにつく。
生きるものの喧騒も、
戦場の喧騒も、
この高い場所には届いて来ない。
多分自分が死んで行く場所も、そういう静かな所ではないだろうかと陸遜は近頃思うようになった。
彼は陸家の誇りを胸に当主として孫家と戦い、死んだ。
彼がいる場所と、自分が死んで行くところが同じだとは、陸遜はどうしても思えなくなった。
自分は多分、彼らとは違う場所にたった一人で行くのだ。
そこには多分誰もいなくて……。
(きっと静かなところだ)
――――【陸遜】!
夢の中で響いた声がはっきりと脳裏に残っている。
それは不思議な声だった。
今まで聞いたことも無い。
それでいて、誰よりも知っている声のようにも思えた。
自分が討たれる瞬間、目覚めさせるように響いた怒号。
あれは何かの天啓だったのだろうか。
(今のままの私では戦場に行った所で、強き者に必ず討たれると)
戦場で死ぬか、
ここから身を投げて死ぬか、
どちらも等しく容易いもの。
陸遜はそうだっただろうかと思った。
死ぬとは、そんな簡単で容易いものだっただろうか?
今まで命を奪われた者達は。
そんなに死というものは、軽かっただろうか?
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