あの人目的でパン屋になったら恋愛どころじゃなくなった件について
ビュッフェ
第1話 佳奈ドキドキ
「パン屋になろう」
――高校三年生の就職面接でそう断言した私、佳奈の脳裏に、焦げ付くようなパンの香りも、小麦の優しい甘さも、ましてや早朝からの過酷な労働環境への覚悟も一切なかった
ただひたすらに、同じクラスで一度も話したことのない、あの勇気くんの顔だけが浮かんでいたのだ
彼はパン屋の息子で、将来は跡を継ぐと友人の咲から聞いている
そう、私にとってパン屋は、彼がいる場所に滑り込むための、唯一無二の手段でしかなかったはずなのに――一体全体、どうしてこんなことになってしまったのだろう
高校を卒業し、無事に「ブーランジェリー・ラ・シュエット」の採用通知を手にした私は、桜色の未来しか見えていなかった
彼と同じ職場で働ける
それだけで、人生バラ色だと信じて疑わなかった
しかし、初出勤日の朝、その甘い幻想は、パン焼き窯の熱気にあっさり吹き飛ばされた
■新たな世界の洗礼
午前4時半、まだ夜の帳が降りたままの薄暗い店内
初めて足を踏み入れた「ブーランジェリー・ラ・シュエット」のバックヤードは、私が想像していた「お洒落なパン屋さん」とは程遠い、まさに戦場だったのだ
顔にまとわりつくような熱気と、肌にじんわりと染み出す汗
鼻腔の奥まで突き刺さるような、酵母の強い、しかしどこか生命力に満ちた香りが充満していた
焦げ付く直前の香ばしさ、バターの甘い匂い、そして微かなイーストの酸味が混じり合い、想像していたよりずっと複雑だ
奥からは巨大なミキサーが「ゴオォォ」と低い唸りを上げて生地を練り上げ、手前では焼けたパンが木製の棚に「カタン、カタン」と置かれる小気味良い音が響く
床には小麦粉が白く積もり、足を踏み出すたびに「シュッ、シュッ」と軽い音が聞こえて来る
大きな作業台には、すでに様々な形に成形されたパン生地がずらりと並び、生き物のようにゆっくりと膨らんでいた
「佳奈、ボーッとしない。次はこっちの生地、こねて」
背後から飛んできたのは、ひときわ冴えた声
振り返れば、切れ長の目が印象的な女性が、無駄のない動きでミキサーに材料を投入している
同学校の一つ上の先輩、美佳先輩だ。高校時代も制服を着崩さない真面目な優等生として有名だったけれど、まさかここで再会するとは
彼女はすでにプロの顔つきで、新人の私とは比べ物にならない手際の良さだ
「ここがパンの心臓部よ、見て佳奈。この通り、早朝から熱気で充満してるでしょ?お洒落なカフェの匂いとは違うわ。汗と小麦粉と、それから、パンへの情熱の匂いよ」
美佳先輩はそう言って、わずかに口元を緩めた
その一瞬の表情に、普段の厳しさだけではない、パン職人としての深い愛情が垣間見えた気がしたんだ
「あ、はい……想像とは、少し違いました」
佳奈は正直な感想が、つい口をついて出た
「そりゃそうよ。パン作りは力仕事だし、時間との勝負。生地は生き物だから、一瞬の油断も許されない。甘いだけじゃ務まらないわ」
その言葉は厳しかったが、彼女の目はパン生地に向けられ、まるで我が子を見るような、深い愛情と誇らしげな光を宿していた
その真剣な眼差しに、私は思わず息を飲んだ
「でも、慣れれば大丈夫。最初はみんなそんなものよ」
美佳先輩はそう付け加えて、私の肩をぽんと叩いた
その手のひらから伝わる温かさに、少しだけ心が軽くなった
「まずは、あのテーブルにあるバゲットの生地から。形成はできなくても、まずは生地に触れて、パンがどういうものか感じなさい。乾燥させないように、素早くね」
彼女が指差す先には、艶やかに膨らんだバゲット生地が数十本も並んでいた
そして何より、そのすぐ隣で、勇気くんが真剣な表情で生地を伸ばしている
勇気くんは、すぐ隣の作業台で、すでに完璧な手つきで生地を伸ばし、迷いなくクープを入れている
その指先の繊細さと、一切の無駄がない動きは、まるで熟練の職人のようだ
私の知るクラスメイトの彼とはまるで違う、プロとしての真剣な横顔に、私は密かな憧れを抱いた
彼の集中した横顔と、私の目の前にあるベタつく生地。まるで天と地の差だった
「は、はいっ!」
勇気くんがすぐそこにいる
その事実だけで、私の心臓はけたたましく警鐘を鳴らし、手元が狂った
力加減を誤って、こねていた生地が作業台から滑り落ち、床にべちゃりと張り付く
「っあ、すみません!」
「佳奈!もったいないでしょ!もう。パンは生き物なのよ。丁寧に扱ってあげないと、美味しくなってくれないわ」
美佳先輩の鋭い視線が突き刺さる
勇気くんがこちらを一瞬見て、すぐに視線を生地に戻したのが分かった
顔から火が出そうだ
これが、私のパン屋人生の幕開けだった
恋愛成就どころか、ひたすら失敗と美佳先輩の雷が飛び交う日々
焦がしたパンの数だけ、私の夢は煤けていくようだった
■焦げ付く夢と小さな光
その日も、私が焼いたクロワッサンは、膨らみが足りず、まるで固いクッキーのようだった
バゲットは焦げ付かせ、メロンパンのクッキー生地はひび割れてしまい、何一つ成功しない
美佳先輩はため息をつきながら
「佳奈、これじゃ商品にならないわ。もっと生地と向き合って」
と容赦なく指摘した
何度やっても、生地は指の間からずるりと滑り落ちたり、必要以上にベタついたり、あるいは固く締まってしまったり
まるで私の言うことを聞いてくれない生き物のようだった
毎日、オーブンから出てくるのは、私が想像した黄金色のパンではなく、焦げ付いた塊か、見るも無残な形の失敗作ばかり
「もう辞めたい」
深夜、一人寮のベッドに横たわりながら、何度そう思っただろう
高校時代の友人たちは、SNSで華やかな大学生活や、キラキラしたアルバイトの様子をアップしている
それに比べて、私は毎日汗と小麦粉にまみれ、怒られてばかり
パン職人なんて、見栄で選んだ私には到底無理だったのかもしれない
故郷の母の
「頑張りなさい」
という言葉が、逆に胸に突き刺さる
こんなみっともない自分を、誰にも見られたくなかった
それでも、辞めるわけにはいかなかった
まだ、勇気くんともちゃんと話せていない
それに、美佳先輩の、あのパンへの情熱を間近で見ていると、不思議と
「もう少しだけ」
という気持ちが湧いてくるのだった
美佳先輩の言葉は厳しかったが、その根底には常に、パンへの深い愛情と、私への期待があることを、私は少しずつ感じ始めていた
彼女の指導は、ただ怒っているのではなく、私にパン作りの本質を伝えようとしているのだと
ある日の閉店後、美佳先輩が一人で黙々と作業台を磨いているのを見かけた
いつもピリピリしている先輩からは想像できないほど、その手つきは優しく、まるでパン生地を扱うかのように丁寧だった
「先輩、お疲れ様です」
思わず声をかけると、彼女は少し驚いたように振り返った
「あら、佳奈。まだいたの?」
「はい、ちょっと。あの、先輩って、なんでパン屋さんになったんですか?」
美佳先輩は、ふっと遠い目をした
「……私の実家、貧しかったの
でも、お母さんが焼いてくれるパンだけは、どんな時も私を元気にしてくれた
そのパンの温かさ、優しさ、強さ…全部、パンに教わった気がする
だから、私も、誰かの心を温めるパンを焼きたいって、そう思ったの」
彼女の声は、普段からは想像もつかないほど穏やかで、そして強い決意に満ちていた
その言葉を聞いた瞬間、私の心にまた一つ、温かい火が灯った気がした。私のパン屋になった動機とは、まるで違う純粋な想い
それが、美佳先輩のパン作りの原動力なのだと
勇気くんの優しさ、美佳先輩の眼差し
数日後、少しだけ作業にも慣れてきた頃のことだ
いつものように生地を成形していると、隣で作業していた勇気くんが、ふと私の方を見て言った
「佳奈さんって、うちの高校でしたよね?確か、一年生の時、同じクラスだったような…?」
その言葉に、私の心臓は飛び跳ねた。
まさか、勇気くんが私のことを知っているなんて!高校三年間、一度も話したことのない私を、彼は認識していたのだ。それも、クラスまで!
「あ、は、はい!そうです!えっと、同じ、クラスでした!」
どもりながら、精一杯の笑顔で答える
顔が熱い
彼が、私の存在を覚えていてくれた
それだけで、このパン屋に就職した甲斐があったというものだ
「やっぱり。名前も、確か……佳奈さんでしたよね?」
「はい!そうです、佳奈です!」
「そっか。まさか、ここで会うとは思いませんでした。こんな朝早くから、大変ですよね」
勇気くんの優しい声が、耳に直接響く
心配そうに眉を下げたその表情は、私の恋愛フィルターを通すと、もはや輝いて見えた
私の内心では、すでに雄叫びを上げてガッツポーズを連打していた
やった!認知されてる!名前まで!
しかし、そんな喜びも束の間、私の背後から、ぴしゃりと現実を突きつける声が飛んできた
「佳奈!手、止まってる!おしゃべりするなら休憩中にしなさい!生地が泣いてるわよ!」
美佳先輩の鋭い突っ込みに、我に返る
やばい
勇気くんとの会話に夢中で、また生地を無駄にしそうになっていた
顔を真っ赤にしながら、私は慌てて作業に戻った
窯の熱気が肌を刺す
目の前で、淡いクリーム色だったパン生地たちが、みるみるうちに黄金色に染まっていく
表面のクープがぷっくりと開き、その裂け目から白い生地が顔を出す
たまらない香ばしい匂いが、オーブンから漏れ出す熱気と共にふわりと漂ってきた
「見ててごらん、佳奈。これがパンの命だよ」
美佳先輩の声が耳に届く
彼女の目が、焼きたてのパンに向けられている
その表情は、普段の厳しいものとは違い、どこか慈愛に満ちていた
「わぁ……本当に、綺麗ですね」
思わず、心の声が漏れた
オーブンから取り出されたばかりのバゲットは、湯気を立てながら艶やかな焼き色を放ち、パリパリと小気味良い音を立てていた
その音を聞くだけで、唾液が湧いてくる
これが、私が焼くパンに……いや、まだ私が焼いたわけじゃないけど
いつか、私もこんなパンが焼けるようになるのだろうか
■覚醒の兆し
ある日のこと
何度も何度も繰り返して生地を捏ねているうちに、ふと、指先に吸い付くような、今までとは違う、なめらかな感触が伝わってきた
それまで反発していた生地が、まるで私の手に馴染むかのように、優しく、しかし確かな弾力を持って応えてくれたのだ
その瞬間、身体中に電流が走ったような喜びが広がる
また別の日は、美佳先輩に言われた通り、息を止めるように集中してバゲットにクープを入れた
恐る恐るオーブンに入れたそのバゲットが、焼き上がりにパチパチと音を立てながら、綺麗にクープが開いた時は、心の中で叫びそうになった
「できた!」
小さな成功体験が、私の心に少しずつ光を灯し始めていた
ある朝、いつものようにクロワッサンの生地を扱う美佳先輩の手元を見ていた
彼女の指先はまるで生き物のようにしなやかに動き、薄く伸ばされた生地を幾重にも折りたたんでいく
その一つ一つの動作に迷いがなく、完璧だった
私はそれを真似ようと何度も挑戦したが、なかなか先輩のようにはいかない
それでも、少しずつ、生地が私に語りかけてくるような感覚を覚え始めていた
「佳奈、今日の生地、いいじゃない」
美佳先輩が、私の捏ねた生地を見て珍しく褒めてくれた
その言葉に、私は飛び上がるほど嬉しかった
初めて、自分の努力が報われた気がしたのだ
■花丸おじいさんの魔法の言葉
そんなある日のこと
午前7時
焼きたてのパンの甘く香ばしい匂いが店内に満ち満ち、小気味良いBGM代わりに、オーブンから取り出したパンが木製の棚に置かれるたび、「カタン」と心地よい音が響く
早朝の澄んだ空気の中、店のドアが「チリン」と軽い音を立てて開くと同時に、ひときわ朗らかな声が響いた
「お、今日もあんぱんは元気かね!」
現れたのは、いつもニコニコと目を細めた、花丸おじいさんだった
ふっくらとしたお腹と、白いひげがトレードマークの常連客
毎朝欠かさずあんぱんを一つ買ってくれる、お店の顔のような存在だ
「花丸さん、おはようございます!今日のあんぱんもばっちりですよ!」
勇気くんが笑顔で花丸おじいさんに応える
その穏やかな声を聞くたびに、また心臓が暴れだしそうになるが、美佳先輩の監視の目がある以上、ミスは許されない
私は必死でトングを握りしめ、あんぱんを袋に詰める
「ふむ、いい香りじゃ。あんぱんは、あんこも大事だが、生地が肝心じゃからのう。お嬢ちゃん、今日のあんぱんは、いつもよりどこか温かい香りがするのう。お嬢ちゃんが一生懸命焼いた証拠じゃな。頑張りたまえよ」
花丸おじいさんは、私のぎこちない動きにも気づいているのか、にこやかにそう言って、代金を置いて店を出て行った
その一言が、焦げ付くような失敗ばかりの日々に、どれほどの温かさをくれただろう
またある日、私がたどたどしく接客していると、花丸おじいさんがニコニコしながら言った
「お嬢ちゃん、随分と手つきが板についてきたのう。あんぱんも、日に日に美味しくなっておるぞ」
その言葉が、私の心に深く染み渡った
恋愛目的でパン屋になったはずなのに、いつの間にか、パンそのものに心を奪われ始めていた
勇気くんへの憧れは依然としてあるものの、それ以上に、自分が作ったパンが誰かに喜んでもらえることの喜びを知ってしまったのだ
■UFOクリームパンの謎と愛ちゃんの行方不明
そして、私のパン屋生活が始まって三日目のこと
その日の夕方近く、店じまいをしようとしていた頃
突然、店の電話が鳴った
勇気くんが受話器を取ると、相手は愛ちゃんのお母さんだった
「勇気くん、愛が、今日の午前中にそちらのパンを買って帰ったはずなのに、まだ家に帰ってこないんです……」
その言葉に、勇気くんの顔がみるみるうちに青ざめていく
愛ちゃんは、勇気くんの従妹で、小学生の女の子
いつも元気で明るく、少し変わったものが好きな子だった。特にお気に入りは、この店で週に一度だけ焼かれる限定の「UFOクリームパン」
クリームパンの形がUFOに似ていることから、愛ちゃんが勝手にそう名付けたパンだった
「え?愛ちゃん、今日の午前中には来てましたよ。いつものUFOクリームパン買って、すぐ帰ったはずですけど…」
勇気くんがそう言うと、受話器の向こうから、さらに焦ったような声が聞こえてくる
「それが、いくら待っても帰ってこなくて。まさか、まだお店にいるんじゃないかと思って…」
勇気くんが電話を切った後、顔を真っ白にして私と美佳先輩を振り返った
「愛ちゃんが、パンを買って店を出てから、ずっと行方不明だって…」
勇気くんの言葉に、嫌な予感が走る
まさか、あのミステリアスな愛ちゃんが、パンを買って家に戻る途中で、何かトラブルに巻き込まれたとでもいうのだろうか
私は愛ちゃんのことを思い出す
彼女はいつも、真っ直ぐで、どこか宇宙と交信しているような不思議な子だった
店の裏にある小さな公園で、UFOクリームパンを大事そうに抱えて、一人で空を見上げている姿を何度か見かけたことがある
「俺、探してくる!」
勇気くんがエプロンを脱ぎ捨て、店の外へ飛び出していく
その背中を、私は無意識に追いかけていた
彼のことが心配で、いてもたってもいられなかったのだ
「勇気くん!私も行きます!」
通りに出ると、勇気くんはすでに角を曲がった先を走っている
私も必死で後を追う。細い路地を抜け、見慣れた公園のそばに差し掛かったその時――
宙に浮かぶUFOと、連れ去られる私たち
突如、空が夜になったかのように暗くなった
見上げると、そこにあったのは、信じられない光景だった
巨大な、黒い円盤
そう、まさしく「UFO」が、私たちの目の前に、音もなく浮かんでいるのだ
あまりのことに、勇気くんも私も、言葉を失って立ち尽くす
そして、UFOの底から一本の光が伸び、その光の中に、愛ちゃんの姿が見えた
彼女は、手に持っていたUFOクリームパンを、まるで護るかのように抱え込んでいた
愛ちゃんの顔は驚きに満ちていたが、不思議と恐怖の色はなかった
むしろ、何かを見つめるような、遠い視線をしていた
「愛ちゃん!」
勇気くんが叫び、光の中へ飛び込もうとする
彼は本当にイケメンだ
迷いなく、大切なハトコを助けようとするその姿に、私の心臓がまた大きく鳴った
勇気くんは愛ちゃんに向かって手を伸ばし、あと少しで届きそうだった
しかし、その光は予測不能な動きで愛ちゃんを捕らえ、ゆっくりとUFOの中へと引き上げていく
愛ちゃんの小さな体が光の中に消えていくのを、私たちはただ見ていることしかできなかった
「待って!勇気くん!」
無我夢中で勇気くんの後を追ったその瞬間、私の足元もまた、強力な光に包まれた
全身がふわっと浮き上がり、抗う間もなく、私は勇気くんと共に、巨大な円盤の中へと吸い込まれていった
意識が遠のく
最後に感じたのは、身体を締め付けるような奇妙な浮遊感と、勇気くんの掠れたような叫び声だった
■未知なる世界への放り出し
次に目を開けた時、目に飛び込んできたのは、今まで見たことのない光景だった
天井らしきものはなく、頭上には信じられないほど近くに、夥しい数の光点が瞬いている
それは地球の夜空に散らばる星々とはまるで違い、一つ一つが大きく、鮮やかな色を放ち、まるで巨大な宝石を散りばめた天蓋のようだった
その光景はあまりにも壮大で、自分がどこにいるのか、一瞬たりとも理解できなかった
ゆっくりと視線を下ろすと、足元には硬く、ざらついた感触の地面が広がっている
それは地球の土やアスファルトとは異なり、黒曜石のように鈍い光沢を帯び、所々に奇妙な模様が浮かび上がっていた
空気はひんやりとして、地球とは違う、微かに金属のような匂いが鼻をつく
周囲を見渡すと、私と勇気くん以外に人影は見当たらない
遠くには、尖った奇妙な形の岩山が連なり、その向こうには、見たことのない巨大な植物のようなものが、不気味なシルエットを描いている
空には、地球の月よりもずっと大きく、赤みを帯びた球体が異様な存在感を放っていた
その赤い光が、周囲の景色を不気味な色に染め上げている
私の視野は、今まで生きてきた地球という狭い世界から、一気に広大な宇宙へと放り出された
自分が今、どこにいるのか、どうしてこんな場所にいるのか、全く見当もつかない
ただ、目の前に広がる異質な光景が、ここがもう私の知っている地球ではないことを、否応なしに突きつけてくる
心臓が早鐘のように打ち、全身が冷たく粟立った。まさか、本当に宇宙に連れてこられてしまったなんて――
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