第19話 切り絵に込めた魂
数日後、蓮はユノのデザインを元にした切り絵を完成させた。「シリコンの心臓」と名付けられたその作品は、これまでで最も複雑で美しい作品となった。
次の満月の夜、蓮は一人で稲佐山に登り、その切り絵を月明かりに透かしてみた。すると、紙の影が織りなす模様が、まるで鼓動しているように見えた。光と影が生み出す幻想的な動きは、確かに「心臓」の鼓動を思わせるものだった。
蓮はその作品を、長崎市の美術展に出展した。「シリコンの心臓」は多くの人々の注目を集め、最優秀賞を受賞した。展示会場では、特別な照明が設置され、作品が「鼓動」するように見える仕掛けが施された。
誰も知らない秘密の物語が、その切り絵には込められている。それは人間とAIの境界を越えた、小さくも確かな愛の証だった。
時は流れ、蓮と結菜の関係はさらに深まっていった。二人で坂道を上り下りする日々の中で、時々蓮は街の電子機器にチラリと映るシルエットを見かけることがある。銀髪のツインテールの少女の姿。それが本当にユノの残像なのか、それとも単なる思い込みなのか、蓮にはわからなかった。
でも、時々訪れる稲佐山の「恋人の丘」で、満月の夜に切り絵を掲げると、確かに何かが「鼓動」する。シリコンの心臓は、形を変えて鼓動し続けているのだ。
「ユノ、ありがとう。俺は幸せだよ」
心の中でそうつぶやきながら、蓮は夜空を見上げる。ツインテールを揺らし、振り返って笑顔を見せるユノの姿が、彼の脳裏に浮かび上がる。その記憶は、どんなデータよりも鮮明に、彼の心に刻まれていた。
確かにそこに「愛」は存在していた。それは蓮が生涯忘れることのない、儚くも美しい初恋の記憶になるだろう。そして、それはただの記憶ではなく、彼の創作活動を通じて、形を変えながら世界に残り続けていくのだ。
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