Ice lolly6⋈②

 私はびっくりして固まる。


 まさか、夕日ゆうひちゃん達にまで言ってくれるなんて。


「…そ」


「へぇ」


「ふぅん」


 夕日ゆうひちゃん、夜野やのくん、三月みつきくんが順番に言う。


 みんなテンション低い……。


「…星野ほしの

「…凜空りくしょう夕日ゆうひも寝不足なだけだから」

「…俺含めてな」


「寝不足…」


 “…あーもう、今日寝不足でやべぇから”

 “…どうなっても知らねぇからな”


 早朝での出来事を思い出し、ボッと顔が熱くなった。


「まぁ、最初から付き合ってる風にしか見えなかったし驚きもないというか」

 夜野やのくんがそう言うと、


「…だね」


「うんうん」


 夕日ゆうひちゃん、三月みつきくんも続けて言う。


 夜野やのくん達には、そんなふうに見えてたんだ…。


「てか怜王れお、昨日のアイスキャンディーキス凄かったね」

 夜野やのくんが、にこっと笑う。


 え……。


 私は氷のように固まる。


「…見てたんかよ?」


「うん、偶然夕日ゆうひ達と通りかかったら怜王れお達が見えてね」

「キス見てから夕日ゆうひにキスせがまれて大変だったよ」


「…ふわぁ、ねむ」

 夕日ゆうひちゃんは、あくびをして夜野やのくんを無視する。


 夕日ゆうひちゃん、高校だとほんとにクールだな…。


「…星野ほしの、昼飯食べよ」


「あ、うん」

「みんなはパンなんだね」


 私は鞄からお弁当箱を取り出してふたを開ける。


 カリッカリの唐揚げに、ふわっふわのゆで卵とおにぎりが入っている。


 それを見て夕日ゆうひちゃんのテンションが上がった。


「え!? 弁当すごくない!?」

「これ、ありすが作ったの!?」


「ううん、お兄ちゃんが…」


 夕日ゆうひちゃんの両目がキラキラと輝く。

「えー、えー、お兄ちゃんすごー」


「良かったら唐揚げ食べる? 美味しいよ」


「いいの!? 食べる!」


「…やめとけ」

 月沢つきさわくんが止める。


「ちょ怜王れお、なんで止めるの!?」


「… 星野ほしのの弁当が汚れる」


「はぁー!?」


「…それで怜王れお、鞄の左脇ポケットに黒い物が?」

 夜野やのくんが月沢つきさわくんに小声で尋ねる。


「…あぁ」


「…なるほどね。さっき全員の名前言ったのもわざとか」


「…恐らく放課後、黒雪やつらは動く。その時は頼む」

 月沢つきさわくんが小声で返すと、


 夜野やのくんは三月みつきくんの耳元で囁き伝えた。



「…もう少し」

 放課後。私は2年B組の教室で一人残って勉強していた。


「終わった…」

 ふと机のスマホを見ると、氷雅ひょうがお兄ちゃんと表示されている。


 え!?

 電話!?

 マナーモードにしてるから気づかなかった!


 私は電話に出て、右耳にスマホを当てる。


「も、もしもし?」


『ありす、今どこにいる?』


 勉強してて良かった……。


「まだ高校」


『は? 高校?』


「うん、今、勉強終わったところ…」


 ブォオン

 ブォオン

 ブォオオオンッ!


 え?

 なんの音?


「キャー! 校門にバイクが!!」

「不審者―!!」

 窓の外から女の子達の叫び声が聞こえてきた。


 え、不審者!?


「あっ、バイクから降りた!」

「走って校舎の中入って行った!?」

「イヤー! 先生捕まえてー!!」

 女の子達のパニックな声が響き渡る。


 私は座りながらオロオロし出す。


 え、え、校舎に!?


『ありす、どうした?』


 私は慌てて立ち上がると窓まで歩いて行き、外を見る。


 え、校門にバイクが2台止まってる!?

 氷雅ひょうがお兄ちゃんに伝え…でも心配かけたくない。


「だ、大丈夫だから切る…」


『ありす、何遠慮してやがる!』


 氷雅ひょうがお兄ちゃんが私の言葉を遮った。


『俺達、兄妹だろ!?』

『本当のこと言えよ!』

『俺をもっと頼れ!!』


 私の両目が潤む。


 氷雅ひょうがお兄ちゃん――――。


「バイクが…不審者が校舎に…どうしよう」


『どうしようじゃねぇ!』

『今すぐ走って逃げろ!!』


『うん。また後でかけ直すね』

 私はそう言って電話を切った。


 走って逃げるって言っても、

 どうしよう、どうしよう、どうしよう。


 まだC組に月沢つきさわくんいるかな?

 とにかくC組に…。


 ガラッ。

 廊下から扉を開ける音が聞こえた。


 私の体がびくつく。


月沢怜王つきさわれおくん、いますかぁ~?」


「チッ、C組にはいねぇみたいだな」


 “ …俺、不登校で有名だろ?”

 “ …だから俺のことよく思ってない連中がたくさんいて”


 前に月沢つきさわくん、そう言ってたし、白い鳥でもたくさん呟かれてたけど…。


 男の子達、月沢つきさわくんを探しに来たの?


「次はB組か」


 どうしよう。

 教室からはもう出られない。

 とにかくカーテンに……。


 私はカーテンの留め金を外して中に隠れる。


「B組も誰もいねぇか」


「いや、待て。カーテン」


 私の顔が青ざめていく。


 あ……、バレて……。


 男の子達の足音が近づいてくる。


 シャッ!

 カーテンが開いた。


 水色の髪の男の子とピンク髪の男の子…。


 2人とも黒マスクして、

 氷雅ひょうがお兄ちゃんと同じ書庫蘭しょこら高校の制服着てる…。


「両足見えてるよ~」

「黒髪ちゃん」

 水色の髪の男の子が楽しそうに笑う。


「俺は速水はやみで」

「こっちは桃原ももはら

「悪いけど鞄見させてもらうね」

 速水はやみくんがそう言うと、


 桃原ももはらくんが私の鞄の左脇ポケットから黒い物を取り出す。


「あー、確定しちゃったね」

星野ほしのありすちゃん」


「なんで私の名前…」

 速水はやみくんに尋ねると、


 桃原ももはらくんが私に黒い物を見せつけながらクールに笑う。

「この盗聴器で丸聞こえだったからな」


 私は両目を見開く。


 え……。

 なんで盗聴器が……。


 グイッ!

 速水はやみくんに腕を引っ張られ、窓ガラスに押し付けられる。


「きゃっ」


「やれ」

 速水はやみくんが命令すると、


 桃原ももはらくんが、きゅっとリボンで両手を背中で縛った。


「痛っ…」


「お、電話かかってきたな」

 速水はやみくんはスマホをズボンから取り出して電話に出る。


『ありすちゃん見つかった?』


「はい、見つかりやした」


『代われ』

 速水はやみくんが私の右耳にスマホを当てる。


『ありすちゃん?』


「…天川あまかわくん?」

 私は窓ガラスに押し付けられたまま問う。


『今日は会いに行けなくてごめんね』

『でもずっと聞いてたよ、やり取り』

『ほどかなくていいとか、ほどかねぇとか、ウィッグ取るとか?』

『ありすちゃんウィッグだったんだね』


 あ……。


『ほどくの好きみたいだから、リボンも俺が用意したけどどう?』

『結ばれた心地は』


「盗聴器、本当に天川あまかわくんが?」


『そうだよ』

『電車が止まってわざと倒れかかった時に仕込んだ』


 わざとだったんだ…。


「なんで……」


『なんでって知らないの? 彼女なのに?』


「っ……」


『可哀想だから教えてあげるよ』

『なんでってそんなの』


 天川あまかわくんがおどけた感じで言う。


月沢つきさわくんが〜暴走族有栖ありすの〜総長だからに決まってんだろ』

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