Ice lolly12⋈① 会いたい。
もう少しで“会いたい”って言いそうだった。
そんなの、無理なのに。
でも、会いたくて仕方がないの。
*
しばらくして両瞼が持ち上がると光を感じた。
白い…天井?
柔らかな物の上にいるみたい……?
手にも温もりを感じる……お母…さん?
「ありす!」
女の子が両目にぼんやりと映る。
ピンクブラウンの髪……?
「目覚めて良かった……夜まで起きなかったから心配したよ」
夜まで……?
ずっと…手…握ってくれていたの……?
白い壁に…テレビ…?
左手に点滴……?
「ここ……どこ……?」
「
「
「軽症な奴らはバイクで2人乗りしてここまで運んだんだよ」
病院……?
手配? バイク?
なんで私……泣いてるの?
あ……。
全てを思い出し、私の両目から止まることなく涙が溢れ出る。
「……
私…止められなかった……。
私がふたりを……殺した。
私の両目から光が消える。
「ありす、ふたりのことなんだけど」
「うん……」
「隣の部屋にいるよ」
「うん……」
……え?
「隣の……部屋?」
「うん、ベットで寝てる」
「それって……死んじゃったってこと?」
「ありす、あのさ」
「私のせいだ。私のせいでふたりが!」
「違う! ふたり、生きてるよ」
生きてる――――?
「冗談…だよね?」
「冗談じゃないよ。ほんとうだよ」
私の両目に光が戻った。
布団を
くらぁっ……。
「ありす!」
「行かなきゃ」
私は点滴をベリっと外し、ベットの手すりを支えに降りる。
「ありす、だめだよ! まだ寝てなきゃ!」
私は
「
遠くから看護師が声を上げ、隣にいる
ふたりが慌てて歩いて来るのが見え、
――――ガラッ!
私は隣の部屋の扉を開け、中に入る。
「え!?」
「ありすちゃん!?」
窓の前に立った
ドア側に立った
「え……
「みんなもなんでここに……」
窓のカーテンは少し開いており、綺麗な三日月が見える。
2人部屋の仕切りのカーテンは全開していて、
窓側のベットにあばら骨にギブスを嵌め、診察衣をまとった
ドア側のベットには右手と左足を包帯でぐるぐる巻きにされ、同じ診察衣の
「
呼びかけると、ふたりの瞼が持ち上がった。
「…ありす」
「ただいま」
私は右手を口に当てながら号泣する。
「…ありす、おいで」
私は
そして泣き崩れ落ちると、三日月が優しく照らす中で
*
7月19日の夕方。また隣の部屋に集まり、テレビを見ていた。
イケメンのニュースキャスターが画面に映っている。
『……続いてのニュースです。17日の深夜、廃墟での崩落事故があり、未成年の高校生による夜遊びだと警察関係者による取材で分かりました』
「名前出なくて良かったねー」
ピンクブラウンの髪の
「
「しゃあーせん」
「サツと担任来る前に特攻服隠しておいて正解だったな」
「あぁ。俺ら高校休んで午前中、サツと
「ありすちゃんの担任の
「親父がサツに話つけてくれたおかげで、なんとか丸く収まったしね」
「…でも
「…辞めたりしないよな?」
「合併したばっかで辞める訳ないだろ。親父にはすぐに退団しろって命令されたけど高校卒業まで両立して上手くやるさ」
「高校卒業まで?」
左手で点滴スタンドを支えに座っている私が聞き返すと
「暴走族は高校卒業したら退団して」
「総長は辞めて次に引き継ぐことに決まってんだよ」
「そうなんだ……」
病院を継ぐことと暴走族の両立…大変そうだけど
「この件はこれで終わりだ。それで
「はい、総長」
「鉄パイプで頭殴られてたんこぶってお前、どんだけ石頭なんだよ」
え、たんこぶ?
「たんこぶって、きゃははっ」
「たんこぶはやべぇな」
「たんこぶはないな」
「たんこぶはないねー」
「てめぇら、うるせぇな」
「俺は右手と左足の骨折って、
「え、
「もう敵じゃねぇし名前でいいだろ。なぁ?」
「…あぁ。お前に呼び捨てにされるのは嬉しくねぇけどな」
「あ?」
なんだかんだ言っても、ふたりが仲良しで本当に良かった……。
「…てかさありす、修旅どうする?」
「…修旅って?」
「…修学旅行だよ」
「…うん。修学旅行のことなら病室で
「…来週の22日から2泊3日で行き先は東京だって」
「…今日19日じゃん?」
「…普通は今日2学期の終業式で明日から夏休みなのに、わざわざ夏休み一週遅れにして修旅行くとかなんなの?」
なんなの? って私に言われても……。
「…
「…うーん。暴走族が修旅はねぇ」
確かに行くイメージないなぁ……。
「ありす、何コソコソ話してんだ?」
「あ、
「夏に修旅!? マジかよ」
「修旅か、懐かしいな」
「2年の時は
「ツーリングしてる時、たまたま修旅の場所通って
「え、
「あぁ。お前が行けって言うから、行ったことにしただけだ」
そうだったんだ……。
「今年も俺んとこの族は行かねぇぞ」
「でもお前は違う。族じゃねぇ」
「金のことなら心配すんな。俺がなんとかするから。行けよ」
「違う……私も行かない。明日の土曜日に退院だけど無理はだめだと思うから」
「……そうか。でも高校の修旅は一度きりだ。それでほんとうに後悔しねぇのか?」
私はへらっと笑う。
「うん、大丈夫」
「…嘘笑い、やめろよ」
「え」
「…ほんとは行きたいんだろ?」
「…行って来いよ」
「でも
私は右手で自分の口を隠す。
「…やっぱ俺のこと気にしてたんだな。俺は行けねぇけど
「よっしゃ!
「修旅とか行きたくないけど
「
「うん」
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