読むだけ! コスパ良くお金持ちになれる悪魔との契約

大河井あき

契約書

 ここに記載するのはあくまで著者である私にとっての最善ですが、あなたの願いを叶える一助となれば幸いです。



 悪魔との契約と聞いて、頭に浮かぶのは「願い」と「対価」でしょう。

 願いの中でも、大金を得たいというのは多くの方がいだくものだと思いますが、ネックとなるのが対価です。四肢や寿命、場合によっては命が奪われかねません。

 確かに、悪魔は狡猾な手段で理不尽な取引を求めてきます。しかし、悪魔が契約自体には従順だからこその、コスパの良い契約の活かし方があります。

 結論から述べますと「第三者の願いを自分が叶えたことにする」という方法です。



 本題に入る前に注意事項を先に示します。せっかちな方が方法だけ読んで実践してしまうとまずいでしょうから。

 古来より、契約というものは口頭ではなく文章形式で行うことが多いです。契約の証拠が残るうえに都合の悪い注意事項が読み飛ばされる可能性が高いからです。特に「この先を読む場合、契約に同意したとみなします」という旨が書かれている文章には注意してください。いわゆる「みなし同意」です。人間の法律では契約を満たす条件にならないケースが多いのですが悪魔には関係ありません。ただちに契約書から目を離しましょう。



 それでは、本題に入ります。

 悪魔と取引を行う話は古今東西にありますが、多くに共通する事項があります。「願いとその対価の大きさは同等」という点です。

 さて、赤の他人であり、難病を抱えて数年間も入院している幼い娘を助けたい父親がいるとしましょう。あなたは彼に向けてこう言います。「私に大金を支払うと約束してくれれば、明日には病気を治してあげます」と。

 この時点では大金を貰わないでおきます。万一断られれば、別のあてを探しましょう。約束を取り付けることができれば、あとは悪魔に彼の娘を助けるように請うだけです。

 ここで重要なのが、あなたにとってその娘は他人だということです。多少の情は湧くかもしれませんが、彼女の病気が治っても治らなくてもあなた自身の人生に大きな影響はありません。大金をまだ受け取っていないので責任感も少なめのはずです。よって、願いはその分小さなものになり、代償を小さく済ませることができるわけです。

 捧げものには髪の毛をおすすめします。身体の一部であるため悪魔には魅力的に映りますが、人間にとっては伸ばせるものであり切って渡せば痛みもありません。次点で爪です。髪の毛ほど多くの量は用意できない代わりに、禿頭とくとうの方や髪型を変えづらい職(モデルや俳優など)に就いている方でも実践できます。

 これで少女の病気は治り、素直に大金を渡してくれる方であれば万事解決です。

 しかし、残念ながら、人の心と悪魔の囁きほど信用ならないものはないのです。彼は訴えるかもしれません。私の子は自分の力で回復したんだとか、医者のおかげだとか、奇跡が起きたんだとか、そのようなことを。

 では、さらに願いを叶えたらどうでしょう。

 次はこう言うのです。「では、私に大金を支払うと約束してくれれば、リハビリなしで身体を自由に動けるようにしてあげます。そうでなければ、病気を患っていた状態に戻します」と。後は同様に悪魔と取引をし、身体を動かせるようにしてあげて、約束を反故にされれば元の状態に戻して再び話を持ちかけるのです。これで、あなたは少ない犠牲で大金を得られるというわけです。



 それでは、最後になりますが、以上の文章があなたと私との間で交わした契約書であることをここに明記いたします。

 人間同士が交わすフォーマットとは大きく異なるでしょうが、契約において最も重要なのは「合意」です。

 あなたは「この先を読む場合、契約に同意したとみなします」という一文に目を通したはずです。文章中の記載じゃないかと思うかもしれませんが、悪魔が狡猾な手段で理不尽な取引を求める点については序盤で触れていますし、何より、著者である私が何者であるかについては一文目に記載してあります。

 悪魔との契約で代償を小さく留めつつ大金を得る手段。これを悪魔側の視点で記載しているのですから、髪の毛程度では足りない価値がある情報であることはお分かりでしょう。

 では、後ほど対価をいただきますので、よろしくお願いいたします。

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