第7話 この恋、ハードモードすぎる……
二度目の再会を果たしてからのあたしは、真理佳のお見舞いに行く前とは打って変わって、毎日毎日どうしようもなく真奈美ちゃんに会いたくて会いたくて仕方なかった。
朝に目が覚めると、まず思い浮かぶのは真奈美ちゃんのこと。
駅までの道を歩きながら「今日会えなかったら、どうやって気持ちを紛らわせよう」なんて考えて。授業中も、ノートの隅に真奈美ちゃんの名前を書いたり消したり。
ちょっとした空き時間には、つい机に頬を押し当てて、「一緒に歩いたらどんな感じかな」とか、「隣に座ってくれたらどんな匂いがするかな」とか、脳内だけでデートを繰り返してる。
……我ながら重症だと思う。
でも、だからって真理佳に言えるはずがない。
「ねぇ、今日真奈美ちゃん家にいるかな? いたら遊びに行きたいな〜」
そんなこと、言えるわけがない。そんなことを言ったら、真理佳との友情も、今の穏やかな日常も――ぜんぶ壊れる気がする。
だから毎回、「暇だから行っていい?」なんて言って、真理佳の家に遊びに行く。その度に、「今日は……いるかな?」って期待して玄関のドアノブを握る。
でも、会えたとしても――
「こんにちは、宮ノ森さん」って丁寧な敬語でにこっと微笑まれて、「勉強があるので」ってすぐ自室に戻っていってしまう。
まぁ当然だ。あの子にとってあたしはお姉ちゃんの友達。歳が離れてる以上に中学生と高校生。お互い知らないことばっかりだから、共通の話題もほとんどない。向こうからしたら、気まずさすらあるかもしれない。
それに、中学生の勉強は大事だし遊んでる場合じゃないのもわかる。……勉強しなきゃいけないのはあたしも同じなんだけど。
でも、そんな現実的なことをいくら頭で分かっていても、心は言うことを聞いてくれない。
(はぁ……)
現実でも心の中でも、ため息が漏れるのがもう癖になりつつある。
そんなこんなで、はや一か月。あたしと真奈美ちゃんの関係性は驚くほど何も進展しないまま、ただただ想いだけが募っていた。
そんなある日、教室の机に突っ伏して、あたしは深いため息をついていた。
「あー……あたしはどうすればいいんだぁぁぁぁ……」
思わず漏れた声に、隣の席の真理佳が面白がったような顔で覗き込んできた。
「どうしたー由宇。二次元キャラに会いに行く方法でも考えてた?」
「実際そんな感じなんだよなぁぁぁ……!」
ガタンと机に額を打ちつけながら叫ぶ。いやほんと、実感としてはそれに近い。
手を伸ばしても届かない、スクリーンの向こうの存在。真奈美ちゃんは触れられるだけチャンスはあるんだろうけど……。
「おーおー、ようやく私の気持ちが理解できるようになったかー。よしよし」
真理佳はニヤニヤしながら、あたしの頭を軽く撫でてくる。その手つきが妙に優しくて、ちょっとだけ心が落ち着いたけど――
(はぁぁ……これが真奈美ちゃんだったら……)
よしよし、なんて言われながら、真奈美ちゃんの手のひらで撫でられたい。肩にもたれて「どうしたんですか?」なんて心配されて、「好きになっちゃいました……」なんて呟けたら、どんなにいいだろう。で、「じゃあ……付き合いますか?」って流れに――――
……って、それはさすがに飛躍しすぎか。
「で、実際何に悩んでるわけ? ほれ、言ってみ」
そうだよね、聞かれるよね。ずっとため息ついて机に突っ伏してんだから。
けど、こればっかりは真理佳にだけは絶対に言えない。
だって、あたしが恋してる相手って真理佳の妹なんだよ? 何考えてんの、って顔をされても仕方ない。それどころか、「由宇……それは流石にないわ」って軽蔑される可能性だってある。
話の流れで"年下の中学生に恋してしまった"ってだけならまぁ……ギリギリ誤魔化せるかもしれないけど、"親友の妹"ってなった瞬間、もう色々アウトでしょ。
だから、口を開いたとしても言えるのはこれくらい。
「詳しくは言えないんだけど、宇宙より広くて、マリアナ海溝より深い悩みがあってね……」
「宇宙と比べたらマリアナ海溝なんて浅瀬だろうに」
「どういうツッコミだよ」
思わず笑ってしまったけど、それと同時に現実に引き戻されて、また気持ちが沈む。
本当に、あたしと真奈美ちゃんの間には、まだまだ乗り越えなきゃいけない障害が山ほどある。
たとえば、まず"宮ノ森さん"って呼ばれてるこの状態から、"由宇さん"に昇格しないといけない。
それだけでも今の距離感から見たらすごく遠く感じるのに、その先には、"連絡先の交換"とか、"ふたりきりで話す"とかが待ってる。
もっと言えば、"手を繋ぐ"とか、"ふたりきりで出掛ける"とか、そんな超絶高難度ミッションが立ちはだかってるわけで。
(はぁ……この恋、ハードモードすぎる……)
教室の窓の外をぼんやりと眺めると、遠くの電柱にとまってるカラスが一羽、空へと舞い上がっていった。あたしの気持ちも、あんなふうに自由に飛べたらどれだけ楽かって思う。
でも、現実はそう甘くない。どこからどうやってアプローチすればいいのか、まったくわからない。それどころか、真奈美ちゃんがあたしのことを「お姉ちゃんの友達」以外として見てくれる日が来るのかも、全然見えてこない。
――あぁ、遠いな。この初恋が叶う日は、ほんと……果てしなく遠い。手を伸ばしても、届くには何年かかるんだろう。いや、届く保証すらない。届かない可能性のほうがずっと高い。
それでも、伸ばさないと届くことは絶対にないんだ。
「ま、そんな壮大な悩みがあるなら遊んで忘れようぜ。とりあえず放課後うち来てゲームでもする?」
真理佳がいつもと変わらない調子で言う。それだけなのに、気持ちがほんの少しだけふっと軽くなる。
あたしは、横に伏せていた顔をあげて小さく笑った。
「するぅ」
今のあたしにできることなんて、ほんとそれくらいだ。目に見えるような進展は、きっとまだまだ先だし、あれこれ策を練ったって空回りするだけかもしれない。
こうやって真理佳の家に通い詰めて、少しでも真奈美ちゃんに会える確率を上げて、顔を見て、言葉を交わして、ほんの少しでも距離を縮めていく。
牛歩のような進み方かもしれないけど、止まってしまうよりはずっとマシだ。
あたしの初恋は、まだ始まったばかりなんだから。
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