砂の書〜獣の章〜 (掟)

『この章は、現文明「獣の時代」の人々が、いかにして破滅を回避し、生き延びるべきかを記した行動規範である。』


 我らは獣である。

 狩人の牙も、大樹の誇りも、菌糸の叡智も持たぬ。

 だが、我らには獣のしなやかさがある。


 獣よ、一箇所に留まるな。渉猟せよ。

 翠点は仮初の寝床にすぎぬ。泥は淀みを好み、動かぬ者を喰らう。常に備え、常に動け。


 獣よ、過去を喰らえ。しかし過去に喰われるな。

 地下の『遺骸』は我らの糧である。だが、彼らの夢を見てはならぬ。我らが見るべきは、今日の砂嵐と、明日の水である。


 獣よ、群れよ。しかし群れに溺れるな。

 個では砂漠を越えられず、群れでは泥から逃れられぬ。己の足で立ち、必要な時にのみ手を取り合え。


 獣よ、天を敬え。地を畏れよ。そして水に感謝せよ。

 我らはその狭間で、かろうじて息をする存在にすぎぬと知れ。


 傲慢は狩人の二の舞。虚栄は大樹の二の舞。探求は菌糸の二の舞。

 我ら獣の道は、ただ生き延びることのみにある。

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