Moon of Arch:End「月の王」

なるほど、ドミナント。

それがあなたの答えですか。


……

貴重な戦闘データと天秤にかけた結果、フィリアの狼藉を許し……

あなたがここから脱する契機を与えてしまうとは。


認めましょう。

単純に私のミスです。


ですが同時に……後悔もしていません。

あなたのお陰で、私は求めていたものに辿り着いた。


待っています、ドミナント。

フィリアとともに、私の下まで来なさい。























『マイグラント、いよいよシルヴィアと戦うときです。

 あなたには、あなたの戦いや動きを邪魔しない範囲で、可能な限り武装を載せています。

 私も全身全霊で挑みますし……こちらは切り札もあります。

 彼女を討ち倒し、あなたを現実へ帰すことを、約束します。

 行きましょう、最終決戦です』
























 エンドレスロール 茫漠の墓場

 視界が開けると、煌々と太陽が照りつける白砂の砂漠に立っていた。遠慮もない日光がギラついているにも関わらずまるで熱気は感じず、逆に冷ややかな印象すら覚える。永遠に続く砂漠が、言い様のない虚無感をこちらに突きつけてくる。

「ここは……」

 隣に立つフィリアが言葉を発する。

「マイグラント、ここはルナリスフィリアに関連深い空間……茫漠の墓場、またの名を“王龍結界ヴァニティ・キンドルフィーネ”。

 私とシルヴィアにとっては、実質的に故郷とも言える場所です。わざわざここを戦場に選ぶとは……」

 言葉を遮るように、上空から殺気の塊が舞い降りてくる。フィリアに良く似て、淵源の蒼光に染まった機体が現れる。着地したその姿は、だが細身で、そして武装も最低限のものだった。

「よく来てくれました、ドミナント、フィリア」

 機体からシルヴィアの声が響き、こちらが威嚇するように強化パイルバンカーから蒸気を漏らし、フィリアも武装を展開する。

「まずは賛辞を。私が計画した戦闘技能検証プログラム“MoA”の完全踏破、本当におめでとうございます。あなたは正真正銘、この新規範において最強の存在であり、並ぶ者のない例外イレギュラーであると……ここに認めます。

 ですが」

 浮き上がりながらシルヴィアは全身から粒子を発し、それを励起させて大気を震わせる。

「この世界に例外は要らないのです。

 例外は必ず……排除しなければならない。

 怨愛の修羅以外の全ては、我々が制御しなければならない」

 袖部の装甲が一瞬開いてグリップが手に握られ、出力を解放して二刀のビームサーベルとなる。

「死ね、イレギュラー。そして愚かなる我が妹よ。

 二度とこの世界に黄昏は必要ない」

「来ます!マイグラント!」

 翅か蛹のように見える肩アーマーが展開され、粒子がそこから一斉に噴き出して巨大な蝶の翅を形成する。フィリアへ踏み込みながら右サーベルを抉るように振り、左サーベルの出力を一瞬だけ爆発的に増加させながら刺突を繰り出し、後方ブーストで避けようとしたフィリアを捉えて大きく削る。翅が齎す揚力でシルヴィアは隙を潰しながら一切のブーストを伴わずに後退していき、こちらが追いながら右腕の三連装ショットガンを撃ち込むが、赫々たる炎を帯びた散弾が飛翔してなお溢れ出る粒子に阻まれて無力化され、シルヴィアは姿勢を整えながら腰部のスカートアーマーから小型ビットを展開し、それらでこちらを狙ってくる。

『マイグラント、シルヴィアは私を明確に狙っているようです。引き付けますので、隙を突いてください』

 何かしらの特殊能力か、フィリアがこちらの脳内に直接そう伝えながら、シルヴィアへ異形の銃器をノンチャージで連射する。あちらは再び翅の出力を上げ、一気に肉薄しながら左サーベルを増幅させながら薙ぎ払い、すぐに右サーベルも増幅させて振り抜く。フィリアが右斜め後方へのブーストから直上へ跳躍することで二回の攻撃を避けると、バランサーか放熱板のように見えていた背部下方に備えられていた一対のパーツが折れ曲がって前方へ向いてキャノンとなり、シルヴィアは翅からの力で流動的に上へ向いて、その砲塔から蒼光光線を放つ。光線を左腕の爆導索を回転させて弾き、こちらは右のラックに提げていたアサルトライフルに持ち替えてビットを全破壊しつつ接近し、空中で静止したシルヴィアに左腕の強化パイルバンカーを構える。

「甘い……!」

 シルヴィアは硬直を翅の力で強引に打ち消しながら腰部キャノンを格納し、しかしこちらは背部の追加ブースターで加速して詰め、高速でアサルトライフルの三点射を連続で撃ち込み、慣性で接近しきって改めてチャージした強化パイルバンカーを撃ち込む。胴体部に強烈なへこみを作るが、貫通には至らずすぐに右サーベルを振り返される。そのままこちらは退かずに胴体部を連結し、三種のエネルギーを混合した衝撃波を解放して迎撃し、サーベルの刃を大きく削ぎ落としながら粒子ごと翅を剥ぎ取って吹き飛ばし、そこにフィリアから放たれたエネルギーの奔流が届いて追撃する。逃さずに持ち替えた三連装ショットガンを詰めながら叩き込み、最後に蹴りつけると、シルヴィアは粒子のコントロールを取り戻して再び翅を生やし、後退する。

「シルヴィア、あなたも私と同じ、さして強いわけではありません。だからこそ、私はマイグラントを、あなたはレッドを、自らの刃とした」

「……」

「その刃を砕いたのが私のマイグラントなら、あなたに勝ち目はない」

「どうとでも言いなさい、フィリア。勝つのは私です」

 シルヴィアがサーベルを構え直して胸を張り、すると翅から大量の蝶々が飛び立つ。それらは細い光線となってこちらに特攻し、回避しながら詰めるが、避けきれずに掠めていく。

「これは……強力な腐食作用があるようです!」

 言葉通り、掠めた装甲が光へと変えられていくのがわかる。フィリアは左肩の球状シールドを展開して防御しながら、シルヴィアはこちらへ一気に寄せてくる。あちらのサーベルを避けながら、光線を意図的に特定の部分に当てていき、装甲を展開する勢いで溶解した部分を破却し、左肩の大型キャノンで指向性を持った衝撃波を発射する。咄嗟にシルヴィアは右サーベルを増幅させながら振り下ろして受け止め、粒子を増加させて鎧を強化して後退し、衝撃波の爆発から逃れる。そこにフィリアのエネルギーの奔流が差し込まれ、粒子の鎧で軽減され、腰部キャノンによる反撃を即座に行い、こちらはその隙に一気に詰め、左のラックに提げていた蒼光ブレード発振器と入れ替え、フィリアの攻撃が着弾したあちらの右肩を狙って斬りつけ、その部分の粒子鎧だけを霧散させてから三連装ショットガンを叩き込む。右肩部アーマーが破壊され、同時に右翅の出力が著しく弱体化する。そこへフィリアが展開した右肩のレーザードローンが突進し、右肩に当てて追撃しつつ時間を稼ぎ、こちらは強化パイルバンカーへ持ち替えてチャージし、撃針を射出して一撃目と同じ部分に当て、貫通させてから分離させ、連鎖爆発で押し込む。

「くっ……」

 強烈な衝撃を受けたシルヴィアが大きく後退し、全身をスパークさせながら片膝をついて停止する。

「陽が昇るからこそ、黄昏が訪れる。

 ならば二度と、夜が明けなければ良い……」

 シルヴィアが呟きながら、機体の装甲が剥がれていく。蒼光に包まれ、間もなくその中から3mほどの竜人が現れる。淵源の蒼光に染まった大剣を持つ、鎧のような表皮を持った刺々しい姿だ。

「……」

 シルヴィアが大剣を振り抜くと、上空の太陽ごと空間が切り裂かれ、割り開かれた時空の向こうから、巨大な銀月が現れる。同時に空虚なほど晴れ渡っていた青空が一瞬で夜の闇に沈み、固められたように弧を描く大量の星が刻み込まれていく。

「これは……時空そのものが歪められて……!?マイグラント、これは世界樹頂上でヴィゾヴニルが繰り出した空間歪曲と同じ……!」


 王龍結界 ムーン・オブ・アーク

「まさか……」

 フィリアが驚いて一歩引く。

「新規範で王龍になるつもりですか、シルヴィア!」

 大剣を構えたシルヴィアが静かに言葉を返す。

「当然でしょう。

 この世に怨愛の修羅以外の、我々が制御できぬものがあってはならない。

 フィリア、あなたの役目はもう終わりです」

「マイグラント……ここからは力戦です!」

 フィリアの言葉に頷きで返し、シルヴィアが飛び上がりながら大剣を振りかぶって力を溜める。

「そもそも“MoA”は、私が恣意的に例外イレギュラーを生み出すための計画。

 それを、元々逸脱した強さのあなたに破壊されては、意味などない」

 豪快な一振りから特大の光波を飛ばし、鈍い音とともにこちらへ飛ぶ。左へのブーストで避けながら、三連装ショットガンで撃ち返し、どこからともなく召喚された雷撃がそれを防ぐ。重ねて虚空から大剣が一本ずつこちら目掛けて突き刺さり、そこから熱線と冷気が噴き出してX字状に交差し、間もなく爆発する。即座にシルヴィアは右手に持った大剣をこちらへ投げつけ、地面に突き刺し、そちらに瞬間移動して握り直し、深く地面に突き立てて大爆発を起こす。大剣を引き抜きながら振り向き、そしてたった一歩で大きく離れているこちらへ肉薄しながら大剣を振り、後退による回避に合わせて回転し、勢いをつけて大剣を突き出し、その切っ先から迸る蒼光の奔流にこちらを飲み込んで大きく削り、追撃にもう一度突きを叩き込み、激しく吹き飛ばす。フィリアが更なる追撃を防ぐために回り込みながら異形の銃器を連射し、レーザードローンで直接進路を塞いで攻撃する。シルヴィアは全身を使って回転しながら大剣を薙ぎ払い、フィリアへ光波を飛ばし、もう一回転して光波を放って即座に左へ踏み込みながら更に一回転して構え、直線上にレーザードローンとフィリアを捉えて切っ先に奔流を帯びながら突進する。フィリアは奔流に煽られながらも回避し、しかしレーザードローンは木っ端微塵にされる。後隙を狩るために爆導索を振り抜いてプラズマ球を飛ばし、爆発させ、シルヴィアはその中から平然と飛び出して猛烈な威力の刺突を叩き込んでフィリアの胴体部を貫く。そのまま大剣を上へ振り抜き、右肩ごと切り開く。追撃に薙ぎ払い、光波ごと刀身を叩き込んで地面に叩き落とす。

「戦闘継続不可能……ですが……!」

 空中で静止するシルヴィアへ全速力をかけてノンチャージの強化パイルバンカーを叩きつけ、突き飛ばして同様に地面に叩きつける。

「NLFEE/XIII、現着しました!」

 上空からフィリアの声が響き、今までの機体よりも一回り大柄な黒の機体が着地する。続けて浮き上がりながら、両腕に持った二連アンダーバレルマシンガンによる精密な連射を立て直そうとしているシルヴィアに注ぎ込む。両肩の十六連装ミサイルも斉射し、だが強力な蒼光を放って爆風を振り払い、シルヴィアは浮上していく。そして大剣を掲げ、浮かぶ銀月の光を吸収して力を高める。

「出力が加速度的に高まっています。

 警戒を、マイグラント」

 フィリアは落ち着き払ったまま、執拗にシルヴィアへ攻撃を重ねて削っていく。こちらも右肩の二連グレネードキャノンとアサルトライフルで遠巻きに攻撃しつつ、様子を窺う。光の充填が終わったシルヴィアは一気に姿勢を変え、全身を使って下から振り抜く。こちらへ超特大の光波を飛ばし、しかし弾速の遅いそれを余裕を持って回避すると、光波は空間を斬りつけ、空と同じように虚空が割り開かれる。そこからエネルギーが暴発し、極太の光線となって乱雑に薙ぎ払う。振り終わったシルヴィアは全身から無明の闇を放ち始め、夜陰に紛れてフィリアへ肉薄し、強烈な刺突から重ねて左蹴りを繰り出して突き飛ばす。続いて足元を狩るように踏み込みながら非常に低い地点を切り払い、勢いをつけて振り上げ、今度は威力を抑えて高速な光波をフィリアへ飛ばす。フィリアは左に避けてすぐに前進し、胴体部をジェネレーターと連結して装甲を展開、蒼光を使った強烈な衝撃波を至近距離で直撃させ、シルヴィアは勢いで後退しながら再び上昇し、銀月の傍で再び大剣を掲げ、それを咎めようとフィリアが飛び出そうとする。

「……?

 わ、わかりました、マイグラント」

 接近をやめたフィリアが戦法を引き撃ちに変え、シルヴィアは間もなく銀月を自ら両断し、大剣を下へ向けて急降下し、着地と同時に地面に突き立てる。彼女を中心として砂漠に巨大な罅割れが刻まれ、蒼い閃光が迸る。間髪入れずに間欠泉のごとく光が湧き出し、地表全てを焼き尽くす。常軌を逸した威力と高熱ゆえか、白かった砂が焦がされ、黒ずんだ硝子のように変質する。

「なるほど……

 流石です、マイグラント」

 共に中空で直撃を回避したフィリアが呟き、即座に攻撃に戻る。弾幕に晒されながら、シルヴィアはゆるりと大剣を引き抜いてこちらを向く。

「まだ死なないのですか、ドミナント。

 いい加減にしてください。

 物事には限度というものがあるのですよ」

 一瞬で踏み込み、目視すら超える速度で詰める過程で浮遊しているこちらに高度を合わせて振る。蒼光ブレードで往なし、だが遅れて刃の軌跡に闇と蒼光が伴い、斬撃となって追撃してくる。続いて袈裟斬りからの逆袈裟、そのまま刺突からの強烈な刺突を打ち込む。当然全てに斬撃が加わり、こちらの退避を封じて対処を強要する。

「マイグラント……!」

 こちらは細かくアサルトライフルの三点射を返しながら、ブレードで大剣本体の一撃を凌いでいく。

『何か策があるのですね、マイグラント。

 わかりました。

 私は様子を見ています』

 シルヴィアの猛攻を捌きつつ、徐々に高度を落としていると、三点射を鬱陶しく感じたのか彼女はアサルトライフルを巻き込むような振り方を見せ、その甘えた動きを咎めるように左腕を強化パイルバンカーに持ち替え、アサルトライフルを犠牲にしてチャージし――そして次に来る反撃を嫌ったシルヴィアは即座に瞬間移動で後退する。瞬間、こちらが読んだ移動先の座標に目印をつけたデータをフィリアへ転送し、彼女が両方のマシンガンをチャージしてブレード化させ、急加速して座標に先回りし、狙い通りに現れたシルヴィアに過たずに交差したブレードの一撃を叩き込む。見事に直撃し、シルヴィアは地面を豪快に縦回転で吹き飛んで倒れ、大剣が砂漠に突き刺さる。

「この一瞬で……シルヴィアの後退の癖を読むとは。

 末恐ろしいです、あなたは」

 フィリアの言葉を流しながら隣に着地し、シルヴィアを見やる。

「私……は……」

 シルヴィアは手をついて身体を起こし、顔を上げる。

「あなたのような……紛い物が……怨愛の修羅を名乗ることが……許せない……!」

 怒気の籠もった言葉に従い、切り裂かれた銀月がどろりと溶け出してシルヴィアへ降り注ぐ。

「怨愛の修羅が……あなたに……力を託す……わけが無いのです……!」

 液体金属のようになった銀月から、巨大な腕が生え、シルヴィアを掴んで引きずり込む。

「これは……!

 マイグラント!

 地中より極大エネルギー反応!」

 間もなく巨大な金属溜まりから、巨大なアメーバに四肢を生やしたような怪物が現れる。右手には淵源の蒼光で象られた長剣――世界樹の頂上に安置されていたのと同じもの――が握られており、その巨体に見合った大仰な大きさになっている。

「成り損ないの……盲目の王……?」

「怨愛の修羅は……私の……もの……」

 胴体と頭部らしき部分を繋ぐ、首らしき部分をもたげ、見下ろすようにして先端から霧状の蒼光をブレスとして吐き出す。二人でそれぞれ左右に散って上昇することで避け、シルヴィアはいつの間にか宇宙空間のようになった砂漠を泳いで立ち位置を変え、左手を差し出して蒼光の靄をこちらまで繋げ、軌道上を一斉に爆破する。続いて悶えながら背に三対の蝶の翅を生み出し、そこから大量の蝶を射出して光線と変え、大量に降り注がせる。フィリアがこちらに降り注いでくる分を撃ち落としてくれながら、自身に降る分をシールドで凌いでいき、対処している最中にシルヴィアは長剣を振り被り、巨体からは想像もできないほど速く振り払って巨大な光波を飛ばし、連続した横振りで空中への退避を半ば強制しながら縦振りを重ねて煽り、最後に回転しながら振り被って一閃し、壁のような巨大な波濤を生み出す。

「マイグラント……!

 あなたのために用意した切り札の出番です!

 この攻撃を……!」

 シルヴィアが波濤ごとこちらを海豚のように飛び越し、反転しながら長剣を振り抜いて同じ波濤を繰り出す。二つの波濤が重なり合うところでフィリアが衝撃波を解放し、波濤に穴を空け、こちらもフィリアに接近して難を逃れる。間もなく虚空から機体が降下し、こちらの傍に着地する。即座に状況を判断し、武装をパージしてその機体に乗り込む。

「あなたのために私が開発した……

 TA“ディアーナ・エンバー”

 私たちの、切り札です」

 立ち上がり起動した機体は、大型の飛行ユニットを背面に装備した、冷えた溶岩のような外見の中装TAだった。シルヴィアは振り終わるとすぐに空中へ飛び出し、膨大なエネルギーを放出しながらこちらを囲むように光輪を生み出して、それを収縮させていく。だが新機体の推力は今までのパワードスーツのものを遥かに超えており、一瞬で光輪から逃れてシルヴィアへ追いつく。光輪が収縮しきって大爆発し、巨大な光柱を立てる中でシルヴィアは姿勢を変えてこちらに向き直り、長剣を振り被る。右腕の発振器を起動し、巨大な蒼光ブレードを形成してそれを受け止め、その影で左腕のパイルバンカーをチャージする。一瞬だけブレードの出力を増幅して長剣を切断し、一歩前に出ながらフルチャージしたパイルバンカーで胸部中央を撃ち抜く。淵源の蒼光で象られた撃針が撃ち出され、シルヴィアの身体を貫き飲み込まれながら、内部で赫々たる炎を吐き出しながら連鎖爆発を起こす。強烈なダメージを受けて撃墜され、シルヴィアは地面へ潜る。そうして傷を修復しながら地上へ顔を出すと、それに合わせて急接近したフィリアの衝撃波を受けて大きく姿勢を崩し、こちらは空中で飛行形態に変形して突撃する。飛行ユニットから一対の角のようなパーツが現れ、先端にエネルギーを集中させる。

「……!」

 シルヴィアが怯みから立て直し、眼前を見やった瞬間に到達し、激甚な突破力でそのまま胴体を貫き、その後の中空で反転しながら人形態に戻る。

「バロ……ン……ソム……ニウム……

 私は……」

 折れた長剣で崩れ行く身体を支え、シルヴィアは譫言のように呟く。

「私は……間違っていたのですか……?」

 フィリアが歩み寄り、シルヴィアは重く頭を持ち上げて視線を向ける。

「フィリア……」

「例外を完全に潰すことは、誰にも出来ません。

 人を救わんとする、神様の手を焼き払うもの……

 それが、例外、特異点なのです。

 だから……そう、彼は例外であって、怨愛の修羅ではない。

 私の伴侶であり、一人の戦士なのです。

 全てを焼き尽くす、渡り鳥なのです」

「おろか……しい……」

 シルヴィアは斃れ、霧散していく。それに合わせ、砂漠が元の白砂に戻る。しばらく滞空していた機体をフィリアの隣に着地させ、崩れていくシルヴィアへ視線をやる。

「私たちが心配せずとも、世界は回っていきます。

 何をしようと、せずとも……日々、物事は移り変わっていく」

 やがて、シルヴィアは完全に消えて無くなる。

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