【第一章】グラトス、暴虐の開戦

「魔王様、御目覚めを心より歓迎いたします」


片膝をついて恭しく頭を垂れたのは、濃緑の肌に黒曜石の鎧を纏う、人間より少し大柄な戦士だった。だがその顔は、どこかゴブリンを思わせる獣性がある。


「お、お前は……?」


「我が名はグラトス。元はゴブリンでございましたが、魔王様の魔力を糧に進化を果たし、現在は“ハイゴブリン・ウォーロード”と呼ばれております」


進化したゴブリン、知性と戦闘力を併せ持つ魔族。隆也――いやユグ=ザファールの力によって進化した存在だという。


「お前が、俺の右腕……?」


「はい。この百年、魔王様が蘇る日を夢見て、軍団を率いながら反乱や人間の侵略から国土を守って参りました」


思わず背筋が伸びる。自分はかつて最強と恐れられた魔王であり、そしてその復活を千年待ち続けた忠臣が、目の前にいる。

ニートだった自分が、だ。信じられないが、全ては現実。


「……わかった。グラトス、まずは状況を教えてくれ。俺が何をすればいいのか」

「はっ」


この世界には七つの種族があり、それぞれが王を戴く。


・人間(ヒューマン)

・エルフ

・獣人(ビーストフォーク)

・竜人(ドラグーン)

・ドワーフ

・妖精(フェアリー)

・魔族(デーモン)


百年前、魔王が沈黙したことをきっかけに、六種族は「七王連合」を結成し、魔族を封じ込めた。


だが、魔王の再来によりバランスは崩れ始める。


「魔王様、最初の敵は人間どもです。奴らは“聖騎士団”を率いて、我が魔国の東境を侵犯しております」


「なるほどな。じゃあ……こっちから先に動くか」


隆也の中に、眠っていた“魔王の本能”が目を覚ます。


「俺に手を出したこと、後悔させてやるよ」


初陣は夜。

隆也は自身に備わったスキルを確認する。魔王たるもの、当然並外れた能力を持っていた。

その中でも異彩を放っていたのが――


《ユニークスキル:<睡魔>》

任意の範囲に“深い眠り”を付与する。抵抗成功率:0.001%


「俺が一番得意なのは“寝ること”だったからな……ふざけた能力だが、面白い」


敵軍に接近するだけで、兵士たちが次々に意識を失い、馬から落ちていく。白銀の聖騎士団ですら、成すすべなく瓦解していく様は、まるで“眠りの死神”。


「これが……魔王の力……!」


グラトスが感嘆の声を上げた。

隆也はそのまま、敵将の本陣に歩を進めた。


「俺は、寝てただけなんだよ。それだけで、勝てるんだから」


恐怖に震える聖騎士団長に向かって、隆也はにやりと笑った。

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