見て見ぬふりをした男の末路

しいな

第1話


ある、バレンタインの日。俺は部屋の片付けをしていた。別に、深い訳はなかった。何となく思い立っただけ。でもやってるうちになんだか火がついてしまって、長時間夢中になって片付けや掃除をしていた。そしたら学生時代の物が沢山出てきて、懐かしいなぁと思い出に浸っていた、その時。ぐしゃぐしゃになった小さな紙切れが数枚出てきた。その瞬間、俺は1秒ほど呼吸を止め瞬きも忘れ紙切れを眺めていた。

封じられていた、遠い昔のようにもつい最近のことのようにも思える高校時代の苦い記憶。それが蘇ってきた。

「うえ…気分が悪くなってきた…」

少し片付けは休憩にして、休もう。そう思い、俺が好きな最近流行っている漫画を読んでいた。その漫画はいじめを受けていた女の子が成り上がり、いじめてきた人を見返す話。1巻読み終わった頃スマホの通知がなった。

「…タイミング悪すぎだろ」

来ていたのは、高校の同窓会をやるという連絡。

逆にタイミングがいいのかもしれないな。流石に欠席しよう。あんなことを思い出した直後に行けるわけが無い。そんなことを思いながら俺は当時のことを思い出していた。



学生時代。俺には家が近所の幼なじみがいて…

そいつ、凄い美人だったんだよな。陰キャだったからクラスの中心にいたとは言えないけど、ずっと注目の的だった。だからすごい妬まれてたんだよなぁ…ま、幼なじみとはいえ俺は普通の高校生だったしまったく話さなくなっちゃったし接点なかったんだけど。

で、俺は普通に高校生活楽しんでたら、ある日突然幼なじみ宛の紙切れが机に毎日入るようになったんだっけ


それは、9月頃の話。

「あれ、おかしいな…ここに入れておいたはずなのに…」

俺は確かに机の中に入れたはずの忘れ物を探していた。

だけど全然見つからなくて、ついには机のものすべて出して探し始めたんだ。

そんな時。俺の使ったことの無いノートの切れ端が机の中から落ちてきた。

「なんだこれ?」

拾い上げてみると、文字が書いてあった


~~〜~~~〜~~~~〜~~~〜~~

今日は2階の空き教室にいつもの時間集合。

5秒でも遅れちゃダメだよ!でも、フライングもなし。

待ってるからね!


~~~~~~~~~~~~~~~~~~

紬というと、俺の幼なじみの名前だ。

モテモテだし、告白の呼び出しの手紙を入れ間違えたか…と思ったがいつもの時間ってことは初めてじゃないのか。じゃあ告白じゃない?

ていうか2回の空き教室って何個かあるのに具体的に言わず制限時間5秒って…というかなんでそんな条件を?

そんなことをぐるぐると考えていたが、答えなんて出るわけもなく。なにかの遊びの紙を入れ間違えたということにして、その時は気にも止めなかった。今思うと、それが間違いだったのかもしれない。



次の日の放課後。また机の中を漁っていると、見覚えのある紙が出てきた。

「またこれかよ…」

そこに書いてあったのは、昨日と何ら変わりない文書。ただ一点だけ違ったのは、2階の空き教室から屋上に変わっていたことだった。なんだ?二日連続で間違えるか、普通?

「俺と紬の席を勘違いしてるのか…?」

それなら二日連続で間違えることだってあるか。俺は目立たないが紬は目立つので間違えることはないと思うんだが…他クラスのやつなのかな。

そんな憶測をしつつ、誰がいつ入れているかは分からないのでそれとなく伝わるよう名前が書いてある面を上にノートを置いておいた。これで誤解は解けるだろう



次の日。朝登校してすぐと昼休みに紙が入っていないことは確認した。放課後。ないと信じたいが、一応もう紙が入っていないか机の中を探してみた。…すると、小さな紙に触れた感覚がした。まさか。俺は息を飲み、その場に固まってしまった

「またかよ…」

そこには昨日、一昨日と同じ紙が入っていた。

そこには場所だけ違う同じ文章と、なにか液体が染み込んだ跡が付いていた。

「きもっ」

恐らく意図して俺の机に入れていることも得体の知れない液体の後がついていることも気持ち悪くて、急いでゴミ箱に紙を捨てた。

なんて悪質なイタズラだろう。わざわざ放課後、もうほぼ誰も教室にいない時間に入れて。もしかして廊下から反応を見て楽しんでいたり?

そう思い俺は急いで廊下に出たが、誰もいなかった。

…もう帰ろう。


その後。1週間経っても紙はまだ入っている。その後1ヶ月経っても、半年経ってもまだ紙は入れられ続けていた。内容は場所が変わること以外毎回一緒。思い返してみれば場所はいつも学校内の人があまり来ない場所だった。そして、気づけば三学期も中盤。ここまで続くとさすがに慣れてきて紙を確認し捨てるの繰り返し。それ以外、何も特別なことはなかった。

だがバレンタインの日。その日も相変わらず紙が入っていた。今日は校舎裏。今まで書かれたことの無い場所だった。

…もしかして、俺への呼び出し?

紙にはいつも紬としか書いてない。紬より。の可能性だってあるだろ。幼なじみだし、俺が忘れているだけで幼少期のいつもの時間があってもおかしくない。それにこんな日に校舎裏…

1回行ってみるのもありか。こんなイタズラを仕込んだ誰かが分かるかもしれない。

そんな言い訳を誰かへしながら、期待を隠しきれず足早に校舎裏へ向かった。


やっと着いた。教室からそこまで距離はないのに、今日はなんだかすごく遠く感じた。でも、苦じゃなかった。

むしろその時間を楽しんでいた自分がいた。

早くなる鼓動を落ち着かせるように深呼吸をする。

そして、こっそりと校舎裏を覗いた。もしかしたら嫌がらせかもしれないし。

…チラッと覗いた、瞬間。

それを目視したのはほんの5秒にも満たない時間。それでも、今はその時間がすごくゆっくり流れていて無限に感じた。体と思考が固まった。声を出さないことに必死だった。

その一瞬の無限が過ぎた後。未だシャットダウン中の頭とは裏腹に、体は一目散にその場から去っていた。全速力で。



「はぁ…はぁ…」

やっと頭が冷えてきた。それと同時に先程見た光景を思い出す。

痣をかばいながら倒れていて、怯えた目をした紬。それを囲むように立っている女子3人。ひとりは撮影、もうひとりは押さえつけ、最後のひとりは…

思い出しただけでも鳥肌が立つ。あれは紛れもない、いじめだ。

あの紙は、いつも紬が呼び出される時に渡される紙だったんだ。それを…あいつ友達居ないから、俺にsosとして紙を入れてた…?

「なんで俺、逃げたんだよ…」

疑問を口に出した。だがそんなこと、心では分かりきってる。怖くて、面倒だからだ。関わりたくない。俺にはそんな、ヒーローみたいなかっこいいことは出来ない。次は俺が標的にされたら?なぜ早く助けなかったと非難されたら?目撃者として巻き込まれたら?

そんなことを考えると、到底関わる気になれない。

…帰ろう。

俺は紙を捨てる気にもなれずカバンに適当に入れ、学校を後にした。


その後も紙はずっと入っていた。紬からのsosは、次の年になっても続いた。

…だが。ある日突然、ピタリと止んだのだ。紬の引越しによって。

引っ越しの理由は分からない。教師に聞いても気まずそうな顔をして誤魔化されるだけ。まあいい。もう俺には関係ないことなんだから。

その後俺はただ淡々と、平凡に生活し、卒業。

大学に入る頃には紬の事は忘れていた。




「はは。今考えるとやばいな、俺。」

ヒーローにはなれなくとも、協力は出来たかもしれないのに。紙だって捨てずに先生に渡したら証拠になったのに。ゴミ箱に無慈悲に捨てられたsos信号をみてどんな気持ちになっただろう。

…同窓会、出席しよう。

面と向かって話そう、謝ろう。

そう決心し、出席のメッセージを送った。


同窓会当日。懐かしい顔ぶれが沢山だった。

だが、紬のような人物は見つからない。まだ来てないのか?…いや、よく考えると紬がくるかわかんなくね?途中で引っ越したし…

というかいじめられてたし来ない可能性の方が高いな…

まあ、情報収集になるしいいか。

そんなことを思い動かずぼうっとしていると仲の良かった女子が話しかけてきた。

「やほ。久しぶり」

「お、久しぶりだな。」

「元気してた?」

そんな当たり障りのない雑談を軽くしてから俺は覚悟を決め、聞いてみた

「なぁ…紬ってわかるか?」

「えーと…あ、あのすごい美人な」

「そう。そいつ引っ越したあとどうなったとかどこにいるとか知ってるか?」

「え?なんで?」

彼女は困惑したような顔をしていた。

「ああ。あんた、幼なじみだったっけ。」

「そうそう。その後なんの音沙汰もなくて気になってさ」

なんと説明しようか困っていたが勝手に納得してくれて助かった

「まあ、ちょっと前に聞いた噂なんだけどさ…」

彼女はそういい、急に声を小さくした

「あの子、死んじゃったって噂。それも自殺」

その言葉を聞いた瞬間息が止まり、心臓が飛び跳ねる。

「え?!」

「ちょ、声でかい」

「ごめん…」

一瞬皆の目がこちらに向けられていたがすぐ興味をなくしたようだ

「ま、噂だし。真に受けない方がいいよ」

「そ、そうだ…よな。」

知らないから言えるんだ、そんなこと。

いくら否定材料を探しても、信憑性を高めるだけだった

「ちょっと大丈夫?顔色悪いよ?」

「ああ…ちよっと体調が悪いみたいだ。今日はもう帰るよ」

「あ、うん…じゃあね」

そういい俺はさっさと出口に向かった。

その後家に帰るまではどう帰ったかも覚えていない。


家に帰り、風呂にも入らず布団にくるまる。

「俺のせいじゃない…俺が助けていても変わらなかったさ。いじめたヤツらが悪いんだ…俺は関係ない。」

そんな時、スマホの通知がなった。

今は確認する気にもなれず、通知を消す。

通知はニュースのものだった。今流行りの漫画の秘訣を漫画家へインタビューという内容だった。好きな漫画のはずが、今は目にも入れたくない。通知は消してしまったのでもう見ることはないだろう。

「俺は悪くない…俺のせいじゃない…」

まだ早い時間だが布団から出る気になれなかった。

ごめんな…紬。お前は手の届かない雲の上にいて、いくら叫んでも謝っても伝わらないんだな。

軽く泣き、その後いつの間にか眠りに落ちていた。







〜今流行りの漫画の秘訣を漫画家へインタビュー!〜

「ムギ先生、今日はよろしくお願いします」

「はい、よろしくお願いします」

「早速1つ目の質問です。先生の漫画はリアリティが凄いと話題ですが、リアリティを出すためにしていることありますか?」

「そうですね。これは私の過去を参考にしているのでリアリティが出ているのかもしれないです。漫画の通りいじめられていて、見返そうと頑張って今に至ります」

「それはそれは…この、ヒーローは現れなかったという描写もでしょうか?」

「はい。ヒーローになって欲しい人はいたんですけどね…彼も、漫画が好きだったので届いるかもですね」

「それはぜひ届いていて欲しいですね!」

「では次の質問は……」

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