あの子が親父で、親父があの子で……!?

九戸政景

本文

「白雪! 俺と、付き合ってくれ……!」



 もう少しで夏本番というある日、俺こと黒羽くろば光一こういちは学校の裏庭で告白をしていた。その相手は、生まれた頃からの幼馴染みでおもちゃ会社として有名なヤミヤ株式会社の社長令嬢の八宮やみや白雪しらゆき。その名に恥じないほどに純白の肌にしっかりと手入れされた長い黒髪、可愛さと綺麗さを併せ持つ顔つきにスラッとした体型、と異性のみならず同性からも人気の高い自慢の幼馴染みだ。



「光一君……」

「昔から俺は白雪の事が好きだった。生まれた前に父親を亡くして暮らしが少し厳しい俺にも幼馴染みとしてしっかりと接してくれたし、色々気にかけてくれた。見た目だけじゃなく、そんな白雪の内面も俺は好きなんだ!」



 これは一世一代の大勝負だ。父さんと母さんが白雪の両親と友人同士だった事で俺は白雪と幼馴染みになっている。ようはアドバンテージがあるわけだ。けど、世の中には色々な男がいる。そのアドバンテージすら乗り越えられて、白雪とくっつくような男がいたらたまったもんじゃない。ここまで恋心をくすぶらせてきたんだ。ここで勝負をかけるぞ。



「白雪、答えを聞かせてくれるか?」



 ドキドキしながら聞く。白雪の表情は緊張しているものの、嫌がってる様子はない。それに対して少しだけ希望を持っていると、白雪は小さく息をついてからにこりと笑った。



「こちらこそ、よろしくお願いします」

「……ほ、ほんとに?」

「はい。私も光一君の事を出会った頃からお慕いしてますから。ただ、そうなるとやはりこれはお伝えしないといけませんね。光一君、少し待っていてくださいね」



 なんだろうと思いながらも俺は頷く。気にはなるけど、それよりも白雪への告白が成功した喜びと達成感の方が明らかに大きかった。それだけ俺は白雪の事が好きなのだ。



「“お義父様”、出てきていただけますか?」



 その言葉に俺は驚く。こんな平日に白雪のお父さんがいるわけはない。だからこそ出てきてくれという白雪の言葉には驚いたし、かなり早まった父親への挨拶にとても緊張した。けれど、一向に白雪のお父さんが出てくる様子はない。どういう事だろうと思っていたその時、いつの間にか目をつぶっていた白雪がカッと目を開き、にんまりと笑ったのだ。



「よっ、光一。白雪ちゃんへの告白、しっかり出来たじゃないか」

「え……え? し、白雪……?」

「はっはっは! 身体はたしかに白雪ちゃんだ。だが、いま表に出てきてるのは白雪ちゃんじゃない。お前の父親、黒羽光貴こうきだ」



 その言葉の意味がわからなかった。てっきり白雪がふざけてるのかと思ったが、白雪はそういうおふざけはあまり得意じゃない。それに、声だっていつもの楽器のような綺麗なものじゃなくて少し渋さのある男性的なものだ。



「ほ、本当に親父なのか……? けど、どうして白雪の中に親父が……?」

「簡単に言えば、あの世のお役所が少しやらかした事で二つの魂が一つの命として生まれてしまった感じだな。因みに、白雪ちゃんの両親はしっかり知ってる。まあ一音かずねには言ってないけどな」

「二つの魂が一つの命に……え、それじゃあまさか俺と白雪の事を親父はずっと見てきたのか!?」



 親父は白雪の顔でニヤニヤ笑う。



「ああ。プールの時の白雪ちゃんの水着姿で顔を真っ赤にしてる純情ぶりも一緒にいられて心から嬉しそうにしてるところもぜーんぶな」

「お、親父ぃ……!」

「さーて、愚息いじりも楽しんだ事だし、そろそろ白雪ちゃんに交代するか。ということで白雪ちゃん、あとはよろしくな」



 目を閉じてから再び開くと、白雪はいつもと同じ優しい笑顔を浮かべた。



「光一君、お義父様ともども今度ともよろしくお願いしますね」

「ああ……」



 こうして父親入りの恋人との毎日が幕を開けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

あの子が親父で、親父があの子で……!? 九戸政景 @2012712

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ