3 ヒデヨシの仲間あつめ
ヒデヨシは、スカートのすそを引っぱった。
女の子は、ふしぎそうに振り返る。目に映るのは、サルの霊。
「キーッ、キキーッ」
「きてほしいの?」
となりのクラスへ入るヒデヨシ。一年生の教室だ。
女の子も一年生で、このクラスには姉がいる。ふたごなのだ。
ヒデヨシは姉にも話しかけた。身ぶり手ぶりで、同じ頼みをしているらしい。
ふたごは顔を見合わせながら、ヒデヨシについていくことにした。
「行きたい場所があるのかな?」
廊下を出て、まっすぐに行く。
校長室の前で止まる。
ヒデヨシはノックをしなかった。代わりに姿を透明にして、ドアをすり抜けて入っていった。
「いいのかな?」
「いいのかも?」
校長先生は動物が苦手。霊も苦手。
姉は入るのをためらっていたが、妹は待っていられなかった。校長先生の大ピンチだ。
「失礼しますっ」
校長室のドアを開ける。悲鳴がふたごの耳に響いた。
「キッ、キキッ」
「やめてくれえー」
ジャージ姿の校長先生。白髪がなぜかぬれている。
ヒデヨシは三角柱を持って、机の上で踊っている。ネームプレートだ。『斉藤是清』と書かれている。
「机の上に、乗っちゃダメだよ」
「勝手に、物を取っちゃダメだよ」
ふたごがヒデヨシに注意する。
ヒデヨシは三角柱を戻して、机から床に飛び移った。
「キーッ、キキーッ」
校長室のドアへ向かった。行くところがまだあるらしい。
「ついてこいと? 行くもんかっ!」
「ヒデヨシのお願い、聞いてあげて?」
「校長先生も、仲間、なかまーっ」
ふたごはヒデヨシがなにをするのか、とてもワクワクしてるのだ。
小さな生徒に頼まれたら、校長先生も断れない。
「ううう、うう。わかりました……」
サルの霊が悪さをしないか、見張らなければならなかった。
校長先生は覚悟を決めて、ヒデヨシについていくことにした。
奇妙な行動は、それからも続いた。
まずは三年二組に入り、男の子を呼びつけた。なんとふたごの兄だった。男の子も仲間に加わった。
次は四年三組だ。こちらも男子。けれど、ふたごの兄ではない。いとこでもない。校長先生の息子でもないが、選ばれた理由が、みんなはわかった。
四年生の男の子も、ヒデヨシのお願いを聞き入れた。
「キキキ、キキッ」
「どうするのかな?」
「魔王でも退治するとか?」
「魔王だと!」
校長先生が震えあがる。サルの名前はヒデヨシだ。首輪のネームプレートには、『HIDEYOSHI』の文字がある。由来は、豊臣秀吉だろう。その主人が織田信長で、魔王とも呼ばれた冷血漢だ。
「ヒデヨシがいるなら、ノブナガの霊も……。ううううう……」
「ノブナガって名前の霊はいないよ。ぼくは霊にくわしいんだ」
四年生の男子は好奇心が強く、学校の霊を調べているそうだ。
「今のところは、六匹の動物霊が見つかってるよ。ヒデヨシ、リチャード、エリザベス、ジャンヌ、ナポレオン、ガリレオだよ」
「七不思議には足りないよなあ。あとひとつ」
ふたごの兄が残念がった。四年生の男子も同感だった。
「ウキキッ、キキッ」
ヒデヨシがまた歩き出す。ついてこいと。今度はどこへ行くのだろう。
階段をのぼり、五年生の廊下に出る。
ペンギンのエリザベスが、頭をかしげて群れを見上げた。
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