実家に出戻り

この騒ぎのあと一晩眠り込んでしまったようで、はじめは“初めて”職場で無断欠勤をする事となり、見事にクビになった。


取り乱している間は、記憶もないし正気の沙汰ではなかったため誰にもどうしようもなかったししょうがないのである。


時たまこうした奇行に走るためか、いろんな仕事を転々としてきたのだ。


こうして寮を追い出されたはじめは、荷物を持ってなーんとなく、彼の家の前に来た。しかし呼び鈴を鳴らす自信がなく、また怒鳴られたらどうしよう?怖くなってただドアの前に座り込むことしかできなかった。


しばらくすると、出かけていたのか彼が外から家の前に歩いてくる。


『あれぇ⁉︎…帰ったんじゃなかったっけお前?何してんのここで?』


ヒロは驚くも、なんだか嬉しそうにうずくまるはじめに声をかけた。


「クビになっちゃった…寮も追い出された…行く所なくてここに…」


はじめの荷物はとても少ない。本当に最小限しか持っていない。これで無駄なくどうにか生きてきたのであろう…1人で…


『つまり…頼れるのは、“俺”しかいないってか⁇まぁ入れよ。体に悪いぞ。』


ヒロは玄関の鍵を開けると、はじめの腕を掴んで立ち上がらせた。そして少し乱暴に押し込むように部屋に入れる。


はじめはしょーがなくとりあえず居間の奥に膝を抱えるように座った。


『酒しかねぇな…おーいお前、酒飲めっか⁇』


ヒロは冷蔵庫を開けながら頭を掻く。


「僕…あまり飲まない…飲んだことないかも…」


はじめは節目がちに答えて、なんだか落ち着かないのかゆらゆらしてる。


『まぁまぁ飲んでみなようまいぞ〜ホレ』


机の向かいにヒロは座るとキンキンに冷えたビール缶を満面の笑顔で差し出す。


はじめはビール受け取り飲んでみるとすごく苦そうに顔を歪めた。しかしなんだか懐かしい味がした。そして何度か口に運ぶ。


『ん⁇初めてなのにもう気に入ったのか⁇親も酒強かったん⁇遺伝かねぇ…』


ヒロもうまそうにごくごくと飲んでいく。


『1人だとお前の母ちゃんのこと聞いて怖くてさ〜お前が居てちょっと安心したんだよ…』


ヒロがそう言うとはじめが口を開く…


「思い出した…子供の時これ飲まされた…親に…言うこと聞かないと怒られる…だから覚えてるこの味…苦い…」


笑顔だったヒロも、思わず真顔に…


『…嫌だったら、やめとけ…俺が飲む。』


ヒロははじめから缶を奪い取った。


「飲まなくていいんですか⁇」


ちょっと怯えた表情ではじめはヒロを見つめる。


『そんな顔するな…俺は強制してねぇし…親じゃないし…怒らない…』


そう言うとはじめは元のニコニコとした顔に戻る。


『なんか俺飲み物買ってくるわ。何がいい⁇』


ヒロが立ち上がりながらそう言い玄関に向かうも、はじめは彼を追いかけて腕を掴んで止めた。


「水でいいです。水道水…いつも水道水飲んでるんで…」


腕を掴まれて少し動揺しながらヒロははじめの方を振り向くも、その表情はなんだかとても心配そうにはじめを見ている。


『お前普段どんな生活してきたんだよ⁇お茶くらい…』


ヒロは色々察してきた…はじめはどんな幼少期を過ごしたのか?気になり始めた…


今まで他人は“利用”するものと思ってたから彼にとっちゃ珍しい事である。

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グッバイマザーハウス @yoshikichi-445

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