母の幻影

夜遅くの事…彼は疲れ切った体を引きずるようにトボトボとかつての自分が子供の時覚えていた“家路”を行く…


とあるボロアパートの前に着くと、生気のない顔の女性が立っているのが見えた。その女性はチラッと彼の方を見ると、そのアパートの一室の中へと消えた。


「母さん⁉︎」


彼は慌ててその姿を追うと、そこは自分の“かつての実家”だ。


彼はすぐさまドアノブをガチャガチャと回したり、ドアをドンドンと叩き母を呼び叫ぶのを続けた。その顔は尋常じゃない表情で、涙も流していた。もう“まともじゃない”のが目に見てわかる状態…


『うっせぇなぁ⁉︎』


しばらくそれが続くと、ついに中から“住人”が現れた。


彼は勢いよく開くドアに押され、思わず地面に尻餅をついてしまう。


『いい加減にしろやテメェ‼︎何時だと思ってんだよ⁇なんなだよ‼︎誰だオメェ⁇』


中から明らかにガラの悪いという言葉がぴったりな男が出てきた。どうやら今はこの男の“家”のようだ。


「お母さん…お母さん…お母さん…どこ⁇どこ⁉︎」


しかし彼は相変わらず取り乱しているようで、頭を抱えてそう唱えるように繰り返すばかり。


『ちょっ、シーッ…シーッ…近所迷惑‼︎…もぉ、チッ…』


住人はしょうがなく、近所迷惑になるので、その場しのぎに彼を抱えて引きずるように自分の家に入れると戸を閉めた。

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