第2話コンビニのハイボール缶

外はうっすらと雪が積もる年末。

織部はいつも住んでいる東京から、実家へと帰省していた。

北関東にある実家は、やはり東京より肌寒い。

電車を出た彼は、家を出た早朝の東京より、日が少し昇ってきた今の地元の方が寒い事に驚きつつ、電車との温度差に身震いする。


東京ではありえないであろう2つのみの改札を出ると、見知った顔が勢揃いしていた。

温かく迎えてくれる母、喜ぶ妹、そして何も言わず付き添う父の三者三葉の反応を見て、ふっと肩の力が降りたように感じる織部であった。


実家に着くなり、一言も話さなかった父が口火を切る。

「それで、いつ帰るんだ?」

母に背中を叩かれる父。言いたいことは分かっているので大丈夫である。

「5日後の夜に帰るよ」

そう返事をして、父が更に口を開こうとするのを遮って話を続ける織部。

「大丈夫、新幹線のチケット取ってあるから。鈍行で帰ると時間もかかるから、お金出すから新幹線乗れって言うんでしょ?」

それを聞くと父は少しだけ口角を上げ、踵を返した。

「なら、いいんだ。」


年末年始はあれよあれよという間に過ぎ去り、帰る日の夜となった。

母と妹が駅まで送ってくれることになっている。

父は年末年始も忙しい仕事の為、いつも通りであれば織部の出発には間に合わないであろう。

その為朝帰りの挨拶を交わしたところ、父の反応はいつもより薄かった。

いつも通りではあるのだか、織部は少し寂しくも感じていた。


そんな出発の少し前に、父の姿が見えたのだった。

「あれお父さん、仕事早く終わったの?」

キョトンとする母に、父は一瞥するだけで何も返さない。

見ると、少し息が上がっているようだった。

すると某映画の少年のように、ぶっきらぼうに手に持っているものを織部に渡してきた。

中には缶と小袋が入っているようだった。


「……新幹線で食べなさい。」

それだけ言うと、母と妹は揃って大笑いした。

じっと母を睨みつける父。

そんな一幕を織部は名残惜しそうに見つめるのだった。


程なくして新幹線に乗車した織部は、早速袋の中身を覗いてみた。

中には小袋の菓子やつまみが数点、そしてちょっと良いハイボール缶が1つ。

普段寡黙で、感情表現の乏しい父が自身の好みを把握してくれている事に感動した彼であった。


今でも、そのハイボール缶は家の冷蔵庫に大切に保管してある。

いつか心が折れそうになった時、寂しくなった時、

家族の温かみを感じれるように。

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食の記憶 ~食は思い出と共に~ 白久 巻麩 @kimidori4489

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