第2話 家族

🟥🟥🟥【夫婦】🟥🟥🟥


 僕は、カゴに入れられて川を流され続けると……流れの緩やかな河岸へと流れ着いた。

 すると、僕の周りにはカラスの群れが集まってくると僕を取り囲み鳴き出した。


 すると、その声を聞きつけて近くの川沿いで楽しそうに、はしゃぎ水浴びをする若い夫婦が近づいて来た。

 彼らの名前は、金髪の男の方がルーパーと言い。白髪の女性の方はシルフィーと言った。

 すると、その2人はカラスに囲まれたカゴに入れられた僕を見つけると……


「ねぇ、あなた……赤ん坊が捨てられてるわ。

 可哀想に……カラスが集まってるってことは、死んでいるのかしら……」


「そうかも知れないね……可哀想に……

 このまま放っておくのも可哀想だ。僕達で埋葬してあげよう」


 そう言って夫婦は、周りのカラスを追い払うとカゴに手をかけた。

 

「生きてる……この子、生きているぞ……」


 すると、咄嗟に女性の方が僕を抱き抱えた。


「生きてる……本当に、生きているわ!」


「……に、しても良く魔物に襲われなかったな。

 カラスもあんなに集まって居たのだから、魔物が集まって来てもおかしくはなかったというのに……」


 なぜ赤ん坊の僕が魔物に襲われる事なく無事だったのかと言うと、それは不幸中の幸いにもマナコアを抜かれた事により。

 僕は、魔力が無かった為に魔力を敏感に感知する魔物に見つからずにすんだのだった。

 

 そして、2人は僕について話し合うと……


「ねぇ、どうかしら。私達で、育てると言うのは……」


 実は、夫婦には悩みがあった。

 それは、子供がなかなか出来ない事であったのだ。

 別に、そんなに急ぐ必要は無いのだが……結婚した若い夫婦になかなか子供が出来ないと言う事実は奥さんであるシルフィーを苦しめていた。

 なので、2人は話し合うと僕を育てる事にした。


「そうだね。これも何かの縁かもしれないね」


 そう言ってルーパーは、すぐに僕をを引き取るのを決めた。

 その中には、僕に対する同情もあったのかも知れない。

 しかし、僕を引き取る事で奥さんであるシルフィーの肩の荷が少しでも降りる事を願っていたのかも知れない。

 普通に考えると健康な若い夫婦が結婚をしてから数年経っても子供が出来ない事は悩みの種であり。

 最近では、奥さんの方に焦りが出て来ていたのもまた事実であったから。


 そして、ルーパーは妻であるシルフィーの事を心配した結果。

 自分達の子供では無いが、子供がいると言う安心感から奥さんの肩の荷が少しでも降りる事を願って僕を引き取り育てる事を決意した。


 そして、奥さんのシルフィーが僕を抱き抱えると……文字の書かれた1枚の木の札が地面に落ちた。


「何かしら、これ……?」


 それをルーパーが拾うと。


「何か書いてあるぞ……ク……クロウ」


「この子の名前かしら?」


 そして、2人は僕の顔をまじまじと覗き込むと……


 黒髪に黒褐色の瞳。その奥に宿る薄っすらと青く輝く光は、2人を魅了するほど不思議な光りを放っていたと、後に2人は語っていた。


 それから2人は【クロウ】を連れて家に帰ると自分達の子供として大事に育ててくれた。

 

 そして、2人が僕を引き取り2年が経った頃——。

 母であるシルフィーのお腹には、新たな命が宿っていた。

 そして、産まれた子供は母親であるシルフィーと同じ白い髪色の女の子で名前を【ルーシー】と名付けられた。

 それは、父【ルーパー】と母【シルフィー】の頭文字から取った名前である。


 そして、僕とルーシーは本当の兄妹として裕福では無いが家族4人で仲睦なかむつまじく暮らしていた。


🟥🟥🟥【8歳】🟥🟥🟥


 それから僕が8歳になった頃に父さんであるルーパーが、少しの間家を留守にすると……

 母親のシルフィーが、病気にかかってしまった。


 僕と妹のルーシーは母を心配するが、それだけでは母の病気は良くならなかった。

 なので、僕は6歳の妹のルーシーに母さんを任せると——母の病気に効く薬草を求めて森へ入る事を決めた。

 なので、僕は母さんに見つからない様に準備を整えると……


 薬草を入れる為のポーチとナイフを1つ。

 これは、モンスターに出会した時の護身用の為である。

 しかし、モンスターに出会した時は——こんなナイフ1つで、どうにか出来るものでも無いので出来るだけモンスターに見つからない様に気をつけて薬草を探すしか方法はなかった。


 それから、準備を整えた。僕は、森に入る……初めて1人で入る森は、とても薄気味悪く、今にも何か出てきそうな雰囲気を漂わせていた。

 なので、僕は魔物に出会さない様に気をつけながら森を進むと急いで薬草を探す事にした。

 ゆっくりと……慎重に、一歩一歩。足を進める僕は、緊張からか汗をかいていた。

 僕は、服の袖で額の汗を拭うと……少し荒くなっていた呼吸を落ち着かせる為に、深呼吸をした。

 すると、微かな匂いを感じ取った僕は——匂いがする方向へと進む。

 すると、そこには——沢山の薬草が生えている群生地があった。

 僕は、それを見つけると嬉しくなり。走って駆け寄ると、急いでポーチいっぱいの薬草を集めていると——突然、僕の周りに少し嫌な風が吹くと……

 森がざわめき出したのを感じ取ると——僕は、すぐに木の影に身を潜めた。

 すると、ドスンッ……ドスンッ……と低い地響きを鳴らしながら大きな牙と角を持つグレートボアが現れた。


 ……僕は、口を手で押さえると——よりいっそう息を殺した。

 すると、グレートボアがしきりに周囲の臭いを嗅ぎ出したので、僕は、ゆっくりとグレートボアの風下へと移動した。

 ゆっくりと移動する僕の背中から冷たい汗が流れるのを感じる。

 それは、見つかれば……確実に死ぬ為に、一つの間違いも許されない緊張感から来るものであった。

 小枝なども踏まない様に、細心の注意を払いながら進むと……

 さっきまで、僕がいた場所にグレートボアが近づくと——仕切りに地面の臭いを嗅ぐとグレートボアは、大きな叫び声を上げて走って行った。


「ぷっハァ〜〜〜……」


 僕は、溜めていた息を吐き出すと——その場にしゃがみ込んだ。

 そして、少し休んだ後で……来る時より注意をしながら進むと、母と妹の待つ家に無事に帰る事が出来た。

 それから、僕が持ち帰った薬草で母さんが薬を作ると病気はすぐに良くなった。

 そんな母さんと喜ぶ妹の姿を見ると、危険だったが……薬草を取りに行って良かったと思った。


 そして、この時——僕は、人の喜ぶ姿が笑顔が大好きだ! そう思った。


 しかし、この後——元気になった母さんに薬草の事を聞かれた僕は、森の入り口付近に——たまたま生えていたのを見つけたのだと、人生で初めて嘘をつくと……


 母さんは「危ない事はしないでね」と、そう言って僕を抱きしめてくれた。

 だから、僕は……「ごめんなさい」と、謝った。


 そして、この頃から妹は僕に対して尊敬の眼差しを向けてくる様になっていた。


 母を助ける為に、危ない森に1人で入り。母さんを助けた僕は、妹の目から見ると勇者か何かに見えたのかも知れない。

 まぁ、悪い気はしなかったので——僕は妹の前では勇者であり続けようと心に誓った。

 その為に、この日から剣の訓練を僕は毎日行う様になった。

 それからメキメキと腕を上げた僕は、幾度となく母さんや父さん妹のピンチを救うと妹の尊敬の念は日に日に強くなって行った。


🟥🟥🟥【10歳】🟥🟥🟥


 この日は、僕が父さんの仕事を手伝い終わると辺りは少し薄暗くなって来た。

 すると、僕と父さんの元にルーシーが居ないと母さんが慌てて走って来た。

 そして、木の実や薬草を集める為に森に入っていた事を伝えられた。

 父さんは、ルーシーを探す為に村の人達に協力を仰ぎ捜索隊を編成する為に村長の元へと走った。

 森は、魔物が出る為に大人でも多人数で捜索しないと危険だからである。

 しかし、僕はルーシーが1人で寂しい思いをしていると思うと居ても立っても居られなくなり。

 家から飛び出すとルーシーを探しに森へと向かう。

 家から出る時に、母さんが必死に止めて追いかけて来たが、僕は——。


「大丈夫! 僕は、魔物に見つかりにくい体質だから」と言い。


 母さんの静止を振り切るとルーシーを探す為に森へと向かった。



 森に入った僕は「大丈夫……いつも通り魔物の気配は、全くない」

 そして、音を出来るだけ立てない様に気配を殺してゆっくりと進む。

 ルーシーへと続く風の道を辿って……


 この力は、いつから使える様になったのかは覚えていない。

 そのくらい昔から当たり前の様に使えていたからだ。

 僕が、大切に思うモノを思い浮かべて探すと——薄っすらと風の道が発生する。

 僕は、それに従って進む……


 すると、大きな木の穴に隠れているルーシーを発見する。


「ルーシー」


 僕が声を掛けるとルーシーは、泣き出しそうな顔で駆け寄ってくる。

 そして、抱きついて来たルーシーを僕は優しく抱きしめると……


「お家に帰ろう」

「うん……」


 そうして、2人で家に帰る為に森の中を進む。

 森は、真っ暗だが僕は——風の匂いを頼りに、ゆっくりと進む……

 しかし、森を歩き続けて中間に差し掛かった時に……辺りに気配を感じた僕は、ルーシーに隠れる様に指示を出す。

 すると、林の奥から——そいつが現れた。

 そいつは、全長が2メートルは有ろうかと思われるオークで——子供の僕からしたら巨人が現れたと思うくらいの大きさであった。

 そのオークは、辺りを——クンクンッ……と、嗅ぎ回るとルーシーが隠れている方に近づいて行ったので、僕は草陰を身を隠すと小石を拾ってオークに投げつけた。

 投げつけた小石がオークの頭に当たると、オークは怒り僕の事を探し始めた。

 しかし、魔物に見つかりにくい体質の僕はオークの追撃を紙一重の所で躱しながらオークの注意を引いているとルーシーが見つかってしまう。

 僕は、覚悟を決めるとオークの前に立った。


(大丈夫……剣の訓練は毎日欠かさずにして来た。)


 僕は、落ち着きオークの前に立つとオークの攻撃を避けて受け流す。

 何分続いたのだろう……その攻防は、僕には何時間にも感じられた。

 しかし、それがこうをそうしたのかルーシーを探す為に編成された捜索隊が、その音に気づくと大勢の大人達が集まるとオークを退治してくれた。

 そして、父さんの姿か見えたので僕はルーシーを連れて駆け寄るとルーシーを探し出し守った事で父さんや村の人達に褒められた。


 そして、僕は誇らしい気持ちでルーシーと父さんと共に母さんが待つ家へと帰ると——母さんは、僕達に駆け寄るとルーシーを抱きしめた後で——僕の事を……


パシン——ッ!


 僕に頬に平手打ちすると、怒り出した。


「クロウ。貴方は、何をしたか分かっているの!!! 一歩間違えば、ルーシーだけじゃなくて貴方だって帰れなくなる事だってあったのよ——ッ!!!

 ルーシーが居なくなって……貴方まで居なくなったら、私は……私は……どうしたら……」


 そう言って、母さんは泣きながら僕を抱きしめた。


 そんな母さんに、僕は小さな声で……


「ごめんなさい」


 そう母さんに謝った。


 

 この頃の僕は、魔物に見つかりにくい体質のおがけで何度かルーシーをピンチから救えた事で、この特異体質の事を誇りとさえ思う様になっていた。


 そして、何度も助けられた。

 ルーシーは、僕に異常なくらい好意を寄せる様になっており。

 挙げ句の果てには、父さんと母さんに兄である僕と結婚するとか言い出していた。


 ルーシーいわく、ピンチの時には必ず駆け付けて自分を助けてくれる。

 そんな、僕は絵本に出てくる王子様に見えたらしく。

 この頃のルーシーは、いつも僕のお嫁さんになると騒いでいた。


 しかし、両親は——そんなルーシーを訂正する訳でもなく。

 幼いルーシーの気持ちを汲んでか、父さんと母さんは兄妹で結婚出来ない事は伝えなかった。


 なので、僕もいずれ大人になれば分かる事だと思い。

 僕も、わざわざルーシーに説明する事はしなかった。

 それに、この時の僕はルーシーは妹だと分かってはいるのに、ルーシーに結婚したいと言われて好かれる事は、凄く嬉しく強く訂正出来なかったのもまた事実であった。

 しかし、この時の僕は妹のルーシーに告白されて喜んでしまった事は胸の内にしまい。

 両親にも内緒にした。


 そして、この後すぐにルーシーが魔法に目覚めると——。

 僕は、年上なのにも関わらず魔法が全く使えず自分が妹より劣る事が、ストッパーとなりルーシーへの気持ちは劣等感へと変わっていった。




 しかし、それでもルーシーや両親は僕に優しく。魔法が使えない人なんて居ないから大丈夫だと言って、いつも応援してくれた。

 母さんも魔法の発現が遅かった事を教えてくれたのと、歴史に名を残す魔法使いも魔法の発現が遅かった人も居るといつも僕を励ましてくれた。

 でも、周りがドンドン魔法に目覚めて行くと——僕の焦る気持ちは、そんな言葉だけでは拭い切る事は出来なかった。

 この頃の僕は、このままではルーシーに期待に答えられないと思う事が1番辛かった。

 だから僕は、その気持ちを打ち払う様に剣の練習に打ち込んだ。


 そして、そんな僕にも両親も妹は今まで通りに優しく可愛い妹と暮らす日々は楽しく幸せで、それだけが僕の唯一の救いであった。



 しかし、そんな小さな幸せさえ神様は許さなかった。

 僕が13歳で、ルーシーが10歳の頃に、16代国王の【コブラス】が、隣国を攻め落とし。皇帝を名乗るり出した頃——。

 マァゾーン国の落ち着くかと思われたが……治安は悪化の一途いっと辿たどった。

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