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@masafactor
【第1章:春の証明】
卒業式の喧騒のなか、高橋直樹は人気のない渡り廊下にひとり立っていた。笑い声が遠く響くなか、自分だけが取り残されたような感覚にとらわれていた。手に持つ卒業証書は、驚くほど軽く感じられた。
春の風。空は青く、どこまでも澄んでいた。
それでも直樹の心は、沈んでいた。
校舎のガラスに映った自分の顔は笑っていなかった。どれだけ周囲に笑顔を振りまいても、自分だけがどこか夢の外にいるようだった。
あたりには、笑顔と拍手が満ちていた。未来に向けて踏み出す仲間たちの姿が、まぶしく見えた。新しい生活、新しい出会い春の光は、希望に満ちていた。
それでも直樹には、まるでそれがテレビの画面越しのことのように見えた。
洋子と隼人の心中のニュースだった。
そして、ふと顔を上げた瞬間だった。
目の前に、雪が舞っていた。
冷たい風が顔をかすめる。
見覚えのある通学路。制服姿の高校生たちが歩いている。
自分の手にはスマホがあり、画面には“2023年12月12日”の表示。
時は高校三年生の冬に、戻っていた。
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