落ちるはずのない夜

@sono_13

第1話 悲鳴の夜

都心の高層マンション「シエルタワー」。

その夜は、まるで何も起きないはずだった。


香月澪はベランダの窓を閉め、スマホを手に取った。

21歳の女子大生。目の前の未来に漠然とした不安を抱えながらも、日々を淡々と過ごしていた。


だが、午前1時を過ぎたころ、静寂を切り裂くような悲鳴が響いた。


澪は思わずベランダに駆け寄る。

下を見れば、赤と青の光が揺れている。


 「誰かが…?」


翌朝、マンションのロビーはざわついていた。

事件の話題が、住民たちの間を駆け巡る。


二十階に住む女性、水谷梓が転落死。

自殺と断定されたが、澪はどこか腑に落ちない。


そんな折、澪は管理用スマホアプリのログに目をやった。


事件当日、梓の部屋のスマートロックに、存在しないID番号による開錠記録が残されていたのだ。


誰かが侵入した。

そして、その“誰か”が事件の鍵を握っている。


澪の胸の奥に、不穏な予感が芽生え始めていた。

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