第6話いぐぞ、秋の舞台へ

試合から三日後――再始動の日




東北の空は、少しだけ秋の気配をはらんでいた。


仙台ジュニアFCのグラウンドには、早朝のひんやりとした風が吹き抜ける。


だが、その空気とは裏腹に、ピッチの中はすでに熱気を帯びていた。




「んじゃー、リフティング百回な。落としたら最初っから!」




真斗の声に、ユリは舌を出して笑う。




「昨日より増えでるし……」




「昨日勝ったがらって、気ぃ緩めっつぁら、次でボロ負けだっちゃ。な?」




修斗が真剣な目で言った。


その言葉に、徹も静かに頷いた。




「……おら、まだ点取り足りねえと思ってら。PKだげじゃ足りねえ。流れで決めてやっがんな、次」




「ユリは? どしたい?」




その問いに、ユリはボールを膝で受け止め、軽やかに足でコントロールしながら言った。




「おらは、徹ともっと合わせっぞ。ワンツーで崩して、ビュッてゴール決めっがら」




「ビュッて……適当かよ」




「いーの、感覚っちゃ感覚!」




一同に笑いが広がる。







監督の言葉と、新たなテーマ




練習の最後、監督がチームを集めた。




「よくがんばったな。岩沼戦、全員よく走った。だけど、PKまでいったってことは、流れの中での得点力がまだ足りねえってことだ」




選手たちはうなずく。




「次は準々決勝。相手は石巻サッカークラブ。技術でかわされっと、走り負けっと、やられる。お前ら、勝ちてえか?」




「はいっ!」




「だったら、ボールがないときの動き、もっと考えろ。特にユリ、徹、お前らツートップだ。二人の距離とタイミング、もっと詰めろ」




「はい!」




声をそろえて応える。


互いに目を合わせると、自然と笑みがこぼれる。







練習後の帰り道




練習が終わると、ユリと徹はグラウンド裏の並木道をゆっくり歩いていた。




「……おらたち、けっこー組み合ってきたっちゃね」




「んだな。パスのタイミング、前よりピタッて合うようになった気すっぺ」




「おら、あんたがボール持ってっ時、どう走ったらパスくるか、わがってきたもん」




「……おらも、ユリの動き、なんとなぐ見えんだ」




ぽつりと、徹が言った。




ユリはうれしくなって、ついちょっとだけ得意げに言う。




「それ、“以心伝心”っつーやづだっちゃ」




「ははっ、それは言い過ぎだべ」




二人の笑い声が、秋の空に伸びていった。







夜、ユリのひとりごと




その夜、ユリは布団の中で、ぼんやり天井を見つめながら考えていた。




(まだ勝ちたい。もっと遠ぐまで行ぎてぇ)




勝ちたい気持ちもあるけれど、それだけじゃない。


チームで走ってる時間、徹とパスを回す瞬間。


その全部が、ユリにとってかけがえのないものになっていた。




(徹と、もっと強ぐなりてぇ)




そう思いながら、ユリは静かに目を閉じた。


明日はまた、ボールを追う日が来る。






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