追放された荷物持ち、死にかけてスキルが覚醒した結果がこちらです
🍎のるん🐤
1〜30
1. 荷物持ち、強さに目覚める
「――お前は、いらない」
その言葉を最後に、俺はダンジョンの奥に置き去りにされた。誰も振り返らなかった。足音も、もう聞こえない。
……どうしてこうなったかって?
少しだけ、話を戻そう。
◇
俺の名前はレオ。
スキルは一つだけ。
《傷(??)》
ギルドで鑑定してもらったけど、内容は「不明」とだけ表示された。使い方も成長の可能性も分からない、ただの空欄。
この街で、そんなスキルしか持たずに生まれた時点で、俺の人生は底が決まっていた。
――《白刃の翼》。
新進気鋭のパーティに拾われた。
でも、仲間としてじゃない。俺の役目は荷物運び――ポーター。
あとは、みんなのストレスのはけ口。
「おいレオ、また遅いぞ。使えねぇな」
「てめぇ、俺の剣を落としただろ」
いきなり後頭部を小突かれる。蹴られる。
ミスしたら殴られるのは当然。ミスしてなくても、誰かのイライラの矛先になる。
セイラは炎で俺の袖を焦がし、グロムは気まぐれに足を蹴り飛ばす。ノンは弓で、足元ギリギリを射ってくる。
「お前みたいな奴でもパーティーにいられるんだから感謝しろよ」
「スキル“傷”? マジで役に立たねーな」
「飯作れよ。焦がすなよ」
「ポーターなんてな、いざって時は一番先に捨てるもんだ」
俺は反論しなかった。ただ耐えて、荷物と一緒に痛みと悔しさを背負って歩いた。
◇
この国じゃ、誰もが二つ三つは便利なスキルを持っている。
…けど俺には、謎スキル《傷(??)》だけ。
ヴァイス(リーダー)
セイラ(炎術士)
グロム(盾役)
ノン(弓使い)
みんな強いスキルを持っている。俺だけが、“戦えない雑用”。名前すらまともに呼ばれず、ただ殴られる日々だった。
◇
ダンジョンの奥、石壁にみんなの嘲り声が響く。――ふと俺は“全員分の荷物“の重さのせいで体勢を崩す。
「見たか、あいつの動き」
「マジで足引っ張ってんぞ」
「もう無理じゃね? 連れてく意味なくない?」
俺は黙って荷物を抱えていた。
返す言葉もなかった。
「悪いけど……ここまでだわ」
ヴァイスが振り返る。その顔に、もう迷いはない。
「この先は魔物も増える。足手まといは置いていく。――お前、ここで待ってろ」
「……いや、でも……」
「帰り道? 知らねぇよ。運がよきゃ生きて帰れるんじゃね?」
みんなが背を向けて去っていく。誰も振り返らなかった。
俺が“使えない”ってこと、全員が分かっていた。…そして俺自身もよく分かっている。
それでも、ここで死ぬのはごめんだった。
――だから、歩き始めた。
◇
それから、どれだけ彷徨ったか分からない。
喉はカラカラ、腹も背中も空っぽで、意識が遠のきそうだった。 足を引きずり、膝は腫れ上がり、古傷からはじわじわと血がにじんでいる。 手はすりむけ、指の皮がめくれ、爪の間に泥と血がこびりついていた。
ポーションもとうに尽き、足元はふらふら。何度も転び、そのたび石畳に身体を打ち付けた。
肩の傷から止まらない血が服を濡らし、裸足の足裏には裂け目が走っていた。
毒罠の痛みが抜けず、膝は熱を持って痺れ、息を吸うたび肋骨が軋む。
息をするのも苦しい。
「……もう、無理か……」
座り込むと、暗闇の奥でハイエナのような魔物が這い寄ってくる。
牙をむき出し、俺の弱さを嗅ぎつけたように、じわじわと距離を詰めてくる。
何もできず、震える指で床を掴む。
それでも、死にたくない――その気持ちだけは、なぜか消えなかった。
(生きたい……)
その時、頭の中で機械音が鳴り響いた。
《通知:スキル“傷(スカーアーカイブ)”の記録を確認します》
《出血ダメージ:規定数に到達》
《条件達成――新たな副効果を解放します》
《血流操作(パッシブ):発動可能》
――ドクン、と鼓動が跳ね上がる。
◇
次の瞬間、全身の血流が一気に駆け巡った。
心臓が、命を“限界以上”のスピードで送り出している感覚。
―― 体の隅々まで新しい熱が満ちていく。
(なんだ、これ……!)
手足がじんじんと熱くなり、重かった体が嘘のように軽くなった。痛みも、痺れも、全部“動く力”に変わっていく。
「……これが、俺の力……?」
魔物が飛びかかってくる。
だが、体が勝手に動いた。
膝で押し返し、拳で頭をはたき落とす。
心臓の鼓動が速まるたび、思考も動きも冴えていく。
敵の動きが、まるでスローモーションのように見えた。
◇
そして――俺は、本能のままにダンジョンを駆け回った。
壁際を走り抜け、曲がり角で獣型の魔物をかわし、突っ込んできたスケルトンの腕を逆に掴み地面に叩きつける。
上から迫る巨大コウモリには、床を転がりながら体勢を変え、すかさず脚で蹴り上げた。
数の多いゴブリンたちは群れで襲いかかってきたが、一体ずつ間合いを外して、背中を取って仕留める。
“次の一撃”を本能で予測できる。
どんな攻撃も――当たる前に避け、的確にカウンターを叩き込む。
そのうち、暗闇の中でも怖さは消えていった。
崩れかけた階段を駆け上がり、走り寄るリザードマンを肩で弾き飛ばし、毒蛇の襲撃を紙一重で回避し、逆に踏みつける。
“怖い”よりも、“生きている”という感覚が体を満たしていた。
倒れても、また立ち上がる。
汗も、血も、気にならない。
心臓の“高鳴り“だけが、今の俺を支配していた。
◇
どれだけの魔物を狩ったか分からない。
ようやく広い場所に出たとき、悲鳴が響いた。
――若い冒険者のパーティーだった。
鬼ムカデの群れに襲われていた。
「くそっ、あいつ毒った! ポーションが足りない……!」
「……こっちに来るぞ!」
そして 倒れた仲間をかばって、涙目の“少女“が必死に両手を塞いで魔物の前に立っているのが見えた。
「下がれ!」
俺は思わず叫び、駆け込む。魔物の腹部を蹴り上げ、もう一体は拳で突き飛ばす。
攻撃の隙を突いて、“少女“を守るように立ち回った。
鬼ムカデが逃げていくのを見て、背後で倒れている戦士が話しかけてくる。
「た、助かった……あんた、何者だ……?」
「……ただのポーターだよ」
背を向けようとしたとき、気の強そうな女剣士の小さな声が聞こえた。
「あの人……魔力を使ってない……どうして、あんなに速く動けるの?」
何も答えなかった。でも――胸の奥で、今だけは確かに“強さ”を感じていた。
──俺は、もうあの頃の“荷物持ち”じゃない。
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