第27話 恋も友情も、独り占めなんてできないでしょ


金曜の夜。

真悠、竹井華、早坂裕香の3人は、

いつものファミレスに集まっていた。

飲み放題のドリンクバーでココアを注ぎながら、

裕香がいきなり言った。

「で? 原くんと何があったの?」

真悠は「うわ、バレてる」と思ったけど、

観念して席に戻る。

「……ちょっと話しただけ」

「“ちょっと話しただけ”の顔じゃなかったよねぇ、真悠ちゃん?」

「裕香、詰めるの早すぎ」

華が笑いながらフォローを入れる。

真悠はふーっと息を吐いて、カップをテーブルに置いた。

「……うん、話した。原くんと。

 “また誰かに取られそうで怖い”って言ってた」

「は?」

「“俺はいつも好きな人を取られる”って。

 それが嫌で、また私に向き合いたいって」

裕香はわざとらしく目を見開いて、

コーラのストローをぎゅうっとかんだ。

「いや、それ今言う!? 今さら!? ズルくない!?」

「……ちょっと思った」

真悠は苦笑しながらうつむいた。

「でもね、ほんとに苦しそうだった。

 “誰かに取られる前に”って言葉、

 前の私みたいだなって思っちゃって」

「わかるけど、さぁ……」

裕香はストローをいじりながら呟く。

「“怖い”から近づいてくる恋ってさ、

 それって恋なの? 寂しさを埋めたいだけじゃない?」

華が少しだけ視線を落としたあと、

静かに話し出す。

「でも、真悠って昔から、

 “かわいそうな人”をほっとけないとこあるよね」

「……そう?」

「あるよ。

 光助のときも、依与吏のときも。

 向こうがちょっと弱さを見せると、

 つい“私が守ってあげなきゃ”ってなるじゃん」

真悠はギクリとした。

それは、図星だった。

「ねぇ、真悠」

裕香が、まっすぐな目でこっちを見て言った。

「“選ばれる恋”じゃなくて、

 “選びたい恋”してよ。

 もう、誰かに引っ張られるんじゃなくてさ」

真悠は、しばらく黙った。

窓の外には、夜の街が静かに広がっている。

ふと、思い出すのは、妃芽と手をつないで帰ったあの夕方。

そして、渚が「好き」と言ってくれた声。

原くんが、不器用に傷を見せてきた日。

全部が、少しずつ自分の心を揺らしている。

「……わかんないんだよね、まだ。

 どの感情が、本当の“好き”なのか」

「いいよ、それで」

華がやさしく微笑んだ。

「今すぐ決めなくていい。

 でも、自分の気持ちにウソつくのだけは、やめてね」

「うん……ありがとう」

帰り道。

ファミレスを出た3人は、

並んで歩きながら、いつものように笑い合った。

友情って、時に恋よりも強くて、

時に恋よりもやさしい。

そう思える夜だった。

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